第31話 分かり合える友

「どうりで見慣れない土地だと思ったらそういうことか。この魔石の中に見える液体がタイムリミットを示してると考えて良さそうだな」


 金髪の青年がいつの間にか腕につけていた金色のバングルに嵌め込まれている青い宝石を見ながら紫髪の青年は腕組みをしながらつぶやくと、彼の隣に立っていたオノールが静かに頷く。


「もって明日の朝…までということか…。ふむ…しばらく時間をくれ。すぐに戻る」


 モノクルを指で押し上げながら唸り声をあげたオノールは、そう言い残して部屋を出ていった。

 彼女の足音が遠くまで響いていくのを見守っていた信たちだったが、その静寂を破ったのは紫髪の男だった。


「そこのボケッとした黒髪の男に俺たちは召喚されたってのは信じて良さそうだな」


 はぁ…とため息を付いた紫髪の男は、しのぶを見てそういうと、サラサラとした長い髪をかき上げて金色の髪の青年の肩を叩いた。


「自己紹介しておく。俺はアビスモ、魔法使いで肉弾戦は不得手だ」


「僕はルリジオ。剣を使うことが得意で魔法はほとんど使えない。短い間だけどよろしく頼むよ」


 大きな魔石のついたワンドを見せながら無愛想にそういった紫髪の青年アビスモとは対照的に、剣に手を携え、微笑みを浮かべながら握手を交わす金髪の青年ルリジオ。

 彼らは、信たちがガーディナの森で不思議な女性―ダヌに、元の世界からいざなわれて扉を潜ったのだという。

 ダヌからは何も聞かされていないらしく、戸惑っているところに丁度人がいたのでついてきたのだと話していた。


「俺と違って元の世界へ戻れるのか」


「一時的な召喚と、死の間際にこちらに魂ごと引っ張られて転移するのはちがうみたいですからねぇ」


 ナビネを胸の上に抱きながら長椅子に寝転んだハティがのんきな声でそう応えると、ツカツカとこちらに近付いてきたルリジオに目を向けた。

 ルリジオは、ハティの訝しむような視線を物ともしないで跪くと、彼女の透き通るような白い手をとってそっと口吻をして微笑んだ。

 そして、ハティの横に座っているスコルの顔を見て軽く頭を下げると再び立ち上がった。


「改めてよろしく。それにしても、君たち二人はさっきの狼だろう?美しさに目が眩みそうだ…。変化ではなく、人としての器と狼としての器を切り替えているのかな?双子という点もまた素晴らしい。褐色の肌と白く透き通る肌で同じ大きさの乳房でも全く異なる印象を見せてくれるなんて本当に召喚をされてよかった。そうだな…新雪の降り積もる美しい冬の姿と、熱い太陽が照りつける中、生き生きとした生命を感じられる夏の姿を同時に楽しめるというか…狼の姿ももちろん素晴らしい。四足歩行の野生の猛々しさを感じさせながらも分厚い毛皮の下にある3対の乳房は人の姿の時と変わらず豊かで柔らかそうに見える」


「わたしの背中に乗っただけなのにそこまでお見通しってのは確かにすごいわねぇ」


 ハティの引きつった笑顔にも動じないままルリジオが話すのを、少し遠くでアビスモはワンドを磨きながらニヤニヤと見つめている。


「それに…僕は本来衣服には関心を持たないのだけれど…白毛皮の君ハティ黒牙の君スコルを見て初めて思ったよ。谷間を見せるだけが乳房の良さではないんだと。いや、僕はもちろん谷間を見せてくれいる方がどちらかというと好みなのだけれどなんというか服を着ることでこんなにも身体のライン全体が胸部を際だたせることが出来るのかっていうことを知れたのは収穫だ」


「シノブがあたしたちの服は作ったんだ」


 スコルが口を挟むと、ルリジオはスコルの隣に佇んでいる信に目を向け、握手を求めるように手を差し出した。

 おずおずと信がルリジオの手を握り返すと、ルリジオは興奮をしたように話を続けていく。


「君が美の女神たちを更に美しく飾り立てた職人マエストロか…機会があれば僕の屋敷に来て妻たちの服を作って欲しいくらいだ。見ただけでわかる。君も巨乳が好きなんだろう?」


「はい…。なんていうか…俺以上におっぱいに情熱を傾ける人に初めて会って感激してます。みんな、俺がおっぱいのことについて話すとちょっと引いた顔をするっていうか怯えた目をするんですけど…本当に俺よりやばい人は始めてみました。そうですよねさっきいた1つ目の巨人モノクロプスも巨乳なんですよ。服を変えればもっと他の人にも魅力をわかってもらえるんですよね彼女も…。流石にガチの魔物のおっぱいに良さを見出してるなんて話しても理解されないかなって言うのを我慢してたんですが、ルリジオさんには勇気をもらいました」


「お姉さん…シノブくんにはそういう目覚めはしてほしくなかったかなぁ…」


「オイラ、自分が幼女にしか变化できなくてよかったって少し思ったぜ」


「シノブ…1つ目の巨人モノクロプスの魅力にまで気が付き、彼女を一人の雌として思いやれるなんて…」


  話が弾んでいるルリジオと信を見ながら、ハティとナビネが顔を見合わせていると、隣から感極まったような声でスコルがそう呟いた。

 声は少し離れて座っているアビスモにも聞こえたのか、腰を上げて不思議そうな顔をしたアビスモがハティに耳打ちをする。


「…こっちの黒い姉さんはどうしたんだ?」


「やだぁ…恋は盲目ってことよ」


「あー。そういう…」


 ハティの言葉に納得をしたのか、アビスモはスコルと、その視線に先にいる信を見て顎に手を当てながら深く頷いてみせた。


「まだ幸い昼前だ。召喚された英雄殿の戦力が在れば、夕暮れを待たずに月の領域も魔物を一掃できるだろう」


 扉を開くと同時にそういったオノールに部屋にいる全員からの視線が注がれる。

 彼女の言葉に信たちはうなずくと各々武器を手にとって頷いてみせた。


「相手はほぼ無尽蔵の兵力だ…。だが月の神殿前の魔物の女王を討てば勝機はある…。行くぞ」


 勇ましく大きな声で檄を飛ばして背を向けるオノールのあとに、信たちは続いていく。


「魔物の女王…ねぇ…」


 アビスモはマントを翻してかぶりを振りながらそんな彼らの後ろを悠々と歩いていくのだった。

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