第4話 大剣使いのスコル

「そりゃ大変だ。

 あたしでよけりゃ下山するまで付き合ってやるぜ?」


 下着のような丈の皮のズボン、皮の胸当てを纏っただけのように見える上半身という、引き締まった太ももと、美しく割れた腹筋、そして鍛え上げられた肉体とは一見不釣り合いな豊満なバストを露わにしたスコルと名乗った少女は、串刺しにした岩喰亀の肉を炙ったものをしのぶとナビネに手渡すと、笑いながらそう言った。

 前かがみに座っていると、彼女の胸に出来た深い谷間が正面に座っているしのぶからよく見えるようで、そのせいか彼はチラチラと彼女の胸元に視線を泳がせてしまっているようだった。


「それは助かる。どうしようか途方に暮れていたところだ…。

 それはそうと、一つ聞きたいことがあるんだが…」


「なんだい?」


「その…失礼なことを聞いてしまったら申し訳ないのだが…その服装は君の信条的なものなのか?」


「あっははは!なにを聞くかと思えば。

 この生活柄、服なんて着ていてもすぐ破れたり壊れたりするから気にしてられないだけさ。

 ドレスや上等な服なんて似合わないだろうしね」


 谷間を更に強調するかのように身を乗り出したスコルから視線をそらすように顔を俯けながらしのぶが切り出した内容に、彼女はのけぞりながら犬歯が目立つ口を大きく開けて笑った。


「なるほど。安心した。

 そうだ。街まで無事にたどり着いたら是非お礼をさせてほしい。命を助けてもらったばかりか、貴重な魔物の素材の取り分までくれた相手になにもしないのも心苦しい」


「お、そうかい。

 随分お人好しを助けちまったんだなあたしは。ありがたくいただくとするか。

 じゃあ、あんたらはもう少しのんびり身体を休めな。

 あたしはアイツの身体をバラしておくからさ」


 いきなりお礼をすると言われて、悪い気はしなかったのか、スコルは首を傾げながらもニッと笑うと手に持っていた残りの岩喰亀の肉を平らげて、先程まっぷたつにした岩喰亀の遺体から使えそうな素材をまとめに走っていった。


「シノブ…よかったのかい?あの姉ちゃん、別にお礼なんてなくても力になってくれそうだったのに」


「せっかく良くしてくれたんだ。

 あの亀の素材を売れば路銀にも余裕は出るだろうし、出来る礼はしたほうがいい」


 不安そうなナビネの頭を撫でてやり、火に焚べてある新しい肉を取ってやりながらしのぶはそういうと、汗を流して岩喰亀を解体している彼女の姿に目を向けた。

 背中まである灰色がかった黒髪は腰まであり、スラリと伸びた筋肉質な手足には魔物につけられたのであろういくつもの傷跡が残っている。きっと数々の魔物をあの巨大な剣で葬ったのだろう。


「さて…甲羅のいくつかと肉、それにこの鉱石を山分けだっても…お前、持てるか?」


 笑顔で彼女が担いできた岩喰亀の素材を地面に置くと、ズシンという非常に重そうな音が響く。

 しのぶが腕を組んで地面に置かれた物を見ていると、ナビネがヒョイと横から顔を出してきて胸を張って咳払いをした。


「物を運ぶなら任せてくれ!

 オイラの持ってる収納袋は常春の国ティル・ナ・ノーグの王から譲り受けたいくらでも物が入る特製品なんだ」


 ナビネがそういって小さな手に掲げた小さな袋を、スコルとしのぶは訝しげに覗き込んで顔を見合わせると、少し怒ったように頬を膨らませたナビネは小さな袋の口を開いて見せる。


「ほら!嘘だと思うなら一番重そうなソレ!入れてみてくれよな」


 あまりの剣幕に気圧されて、スコルは仕方ないというような感じで一枚の岩喰亀のゴツゴツとした甲羅を手にすると、ゆっくりとナビネの持っている袋の上に下ろしていく。


「おお!こりゃすごい!疑って悪かったよオチビちゃん」


「オチビじゃない!ナビネだ!ちゃんとしたドラゴンなんだぞ!」


「悪い悪い。ナビネ、あんたの袋は本当にすごいね」


 ナビネの持っていた袋は、スコルが持っていた大きな亀の甲羅が近づいてくると、一瞬大きくなり、そしてあっという間に大きな亀の甲羅を飲み込み、もとの小さな袋に戻っていく。

 胸を張ってエヘンと再びいうナビネを目の前にして、スコルもしのぶも目を丸くして驚き、そして小さく拍手をした。

 しのぶとスコルは手分けをしてナビネの持っている袋に岩喰亀から取れた素材を無事収納した。


「荷物がなくなった分、早く村につけそうだね」


  肩に湾曲した片刃の剣を担いで歩いていくスコルを、しのぶとナビネは頼もしく思いながら後を追うのだった。

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