第5話 創造の力

「リーワースが見えてきたな。

 入る前にオイラもちょっと姿を変えるぞ」


 森の木々の合間から見えてきた煙や家らしき建物を見て、そういったナビネは身体を橙色の光に包んだ。

 徐々に人の形になっていく光をしのぶとスコルは不思議そうに見ていると、光の中からとても愛らしい小さな子供が姿を現す。


「へぇ…イマドキのドラゴンは人に化けられるのかい」


「太陽の女神ミトロヒア様の眷属だから出来るんだい!そこらの下等なドラゴンと一緒にしてもらったら困るぜ」


「というか…ナビネ…お前メスだったのか」


「どうだ!そっちの姉ちゃんに負けないくらいの器量良しだろ?」


 無邪気な顔で笑う橙色の髪をした小さな…スコルの腹までくらいしかない背丈の少女に、しのぶはしゃがんで目を合わせながら頭を撫でながら笑った。

 ドラゴンの時につけていた胸当てと、小さなドラゴンの鱗のようなものがついている腰巻きという露出度でいえばスコルと変わらない服も冒険者のマネをしている子供のようで微笑ましいものに見える。


「…ちょっと俺にはそっちの趣味はないけど…そうだな。大人になれば美人になるかもしれないな」


 三人は村にすぐにたどり着いた。


「思ったよりも栄えているな…」


「一応太陽の女神の神殿がある聖なる土地として有名なところだからな。

 そこいらの町より活気も物流もあるんだぜ」 


 人が溢れ、馬や馬車が走り回っている村を見て驚くスコルとしのぶの手を引いて、ナビネは村にある魔物の素材を取引できるという魔物商の元へと走る。

 岩喰亀の素材を無事に貨幣と交換すると、銅貨60枚分になった。


「さて、これだけあればしばらくの宿代にもなるし、その剣を研ぎにも出せるだろ」


 しのぶは、続けてなにかを言おうとしたスコルの手を取ると、彼女の金色に輝く月のような瞳を見つめて「ナビネとここで待っていてくれ」と言い残し、さっと村の喧騒の中へ走っていく。


「オイラがいうのもなんだけど、アイツ変わったやつだよな」


「礼はいらないって言う前に先手を打たれたって感じだなこりゃ」


 ナビネを抱き上げたスコルが、そんなことを話して時間を潰していると、人混みからなにかを抱えたしのぶが小走りで戻ってくるのが見える。

 彼は何も言わずにスコルの手を取ると、そのまま目についた宿に入り、少し値の張る個室を取るとそこに二人を押し込むように入れて、自分も入り、ドアについている簡単な鍵を閉めてほっと一息ついた。


「どうしたっていうんだい?」


「見てほしいものがあったんだけど、人前でこれを試してもいいのかわからなくて」


 頭をかきながら呆れたような顔をしたスコルに対して戸惑いを隠せないような素振りでそういいながら、しのぶは部屋の中央に抱えていた荷物を広げ始める。

 彼が大きな白い布、そして革紐といつくかの鞣された皮を置いたのを見て、スコルは不思議そうな顔を首を傾げた。


「もしかして、鍛冶の能力じゃなくて…」


 ナビネがハッとしたように呟くのを見て、しのぶは頷くと、精神を集中させるように目を閉じて両手を先程広げた荷物のある方へと掲げた。

 すると、布や皮はふわりと浮かび上がり、仄かな光とともに動き出すと、徐々に強くなる光の珠に飲み込まれていく。


「これは…創造の力…。

 なるほど…鍛冶の力を授かったと思ってたが、こういう風に変換されていたのか…」


 驚いているナビネとスコルの目の前には、白い生地で仕立てられた上品な胴衣と皮のベルトがふわふわと浮いている。


「ふぅ。成功したみたいだ」


 額に浮かんだ汗を拭きながらそういったしのぶは、浮力を失って落ちそうになった服をサッと腕にかけると、それを驚いて言葉を失っているスコルの目の前に差差し出した。


「君へのお礼なんだ。

 きっと似合うと思う。着てくれないか」


「え?」


「ほら、早く。

 俺は部屋から出てるから」


 戸惑ったままのスコルの手に服を半ば無理やり手渡して部屋から出ていったしのぶは、しばらくしてニコニコとしているナビネによって部屋に呼び戻された。

 部屋の中には、先程、しのぶによって作られた服を来たスコルが恥ずかしそうな顔で佇んで待っていた。


「思ったとおりだ…。とても似合ってる…」


「そ、そうか?

 あたしにはこんな上品な服似合わないっていうか…こう…お前の好み的にも…もっと胸のあたりとか布が少ないほうがいいんじゃないか?」


「その谷間をしまってくれ」


 スコルが恥ずかしさをごまかそうと、胸元の布を調整するために誂えられた革紐を

緩めようとすると、間髪入れずにしのぶはそういって、革紐に手をかけた彼女の手を両手でそっと掴んで止める。

 

「君の健康的な肉体美はもう充分わかってる。

 しかし、その魅力は着衣の下にあっても微塵も陰ることはない。

 そう…この少しゆったりとした白い布…絹はさすがに手が出なかったのでリネンで妥協をしたんだけど、このふんわりとしたシルエットの下にやんわりとあるこの胸のライン…決して太ってはいないということを強調するためにこの黒いベルトで腰あたりを絞ると…見てくれこの下半身に向けて細くなり、健康的で引き締まった下半身とやわらかな上半身の対比でより美しく見える。

 この服の下にあの最高に美しい曲線が奏でる豊満なおっぱいと腹筋の浮かび上がる逞しい肉体があるのかと思うとそれだけで感動してあまりのギャップに泣いてしまいそうになる。

 助けてくれただけでなく、ギャップの美というものを目の当たりにする機会をくれてありがとうスコル…君は本当に美しい肉体を持つ女性だ…理想の肉体といっても過言ではない。君のおっぱいの下に住みたいくらいだ」


「え…あ…」


「ここでお別れなんて残念だ。でも、君の足手まといになるわけにもいかない。

 お礼にわたすこの服を大切にしてくれたらうれしいよ。

 部屋もよかったらこのまま君がつかってくれ。僕らは二人で村の近くで野営でもするからさ」


 野営という言葉を聞いて咄嗟に不満そうな顔をしたナビネの手を引きながら部屋を出ていこうとするしのぶの手を掴んだスコルの顔は耳まで真っ赤になっているように見える。

 首を傾げながら振り向いたしのぶの目を見つめながら、スコルは金色の瞳をうるませながら口を開いた。


「あ、あたし…あんたにずっとついていく!」

 

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