自転車に乗ってきた台風

第11話

　のぶくんとサエちゃんはおじいさんちで晩（ばん）ご飯（はん）を食（た）べた後（あと）、今度（こんど）はママといっしょに家（いえ）に帰（かえ）りました。台風（たいふう）の風（かぜ）はまた強（つよ）く吹（ふ）いて、今度（こんど）は雨（あめ）もバラバラと落（お）ちてきていました。ママは傘（かさ）を、ふたりは雨合羽（あまがっぱ）を借（か）りて家（いえ）まで急（いそ）いで歩（ある）きました。

　途中（とちゅう）の公園（こうえん）にはもうあの少年（しょうねん）はいませんでした。

　おじいさんは選挙（せんきょ）に落選（らくせん）してしまいました。ママがそんな話（はなし）を電話（でんわ）で誰（だれ）かと、たぶんパパとしている間（あいだ）にのぶくんとサエちゃんは寝床（ねどこ）に入（はい）りました。

　ふたりは並（なら）んで布団（ふとん）を敷（し）いて寝（ね）ています。

「ねえ、兄（にい）や。あの子（こ）たちもうトーホクの方（ほう）へ行（い）ったのかな。」

突然（とつぜん）サエちゃんが言（い）い出（だ）しました。

「トーホク？　どうして？　サエちゃん。」

　のぶくんは横（よこ）を向（む）くとさえちゃんの顔（かお）を見（み）ました。サエちゃんは上（うえ）を向（む）いたまま、大（おお）きなあくびをしました。あくびをしながら、

「たいふうの兄妹（きょうだい）でしょ？　あの子（こ）たち。」

サエちゃんは変（へん）なことを言（い）い出（だ）しました。もう夢（ゆめ）を見（み）ているのでしょうか。でも、サエちゃんの真（ま）っ黒（くろ）な瞳（ひとみ）はピカピカ光（ひか）っていました。

　「さっき、テレビで言（い）ってたよ。自転車（じてんしゃ）で北（きた）へ向（む）かったたいふうがトーホクに入（はい）ったって。」

そんな言（い）い方（かた）ではなかったけれど、確（たし）かにテレビのニュースで言（い）っていました。

　自転車（じてんしゃ）並（なみ）の速度（そくど）で進（すすむ）む台風（たいふう）はこの町（まち）辺（あたり）りでしばらく止（と）まっていたけど、今（いま）は東北地方（とうほくちほう）を通過中（つうかちゅう）だと。

　「そうか、台風（たいふう）だったんだ。自転車（じてんしゃ）に乗（の）ってきたんだ。かっこ悪（わる）い自転車（じてんしゃ）で。」

のぶくんは朝（あさ）の天気予報（てんきよほう）で台風（たいふう）が自転車（じてんしゃ）に乗（の）って向（む）かってきていると言（い）ってたことを思（おも）い出（だ）しました。

　「ボロ自転車（じてんしゃ）。」

サエちゃんはそう言（い）うとキャッキャと笑（わら）いました。

　「サエちゃん、なんであの子（こ）はすぐ戻（もど）って来（く）るってわかったの？」

のぶくんがサエちゃんに聞（き）いてみました。

「だって、あの子（こ）もあの子（こ）の兄（にい）やが大好（だいす）きなんだから。帰（かえ）って来（く）るに決（き）まってる。あの兄（にい）や、あんなに心配（しんぱい）してたんだし。あったりまえ〜。」

サエちゃんはそう言（い）ってまたキャッキャと笑（わら）いました。

　「サエちゃん、ボクもサエちゃんが大好（だいす）きだよ。色々（いろいろ）ごめんね。」

のぶくんはそう言（い）うとタオルケットの中（なか）からサエちゃんに手（て）を差（さ）し出（だ）しました。サエちゃんも手（て）を出（だ）して黙（だま）ってのぶくんの手（て）を握（にぎ）りました。

　今日（きょう）は３人で寝（ね）る約束（やくそく）をしたママが子供部屋（こどもべや）に来（き）た時（とき）にはのぶくんとサエちゃんはしっかり手（て）をつないで眠（ねむ）っていました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわり