自転車に乗ってきた台風

第2話

　お昼前（ひるまえ）、ママは出掛（でか）けることになりました。キッチンテーブルの上にはラップのかかったサンドイッチが置（お）いてありました。

「どこへ行（い）くの？」

のぶくんがききました。

「台風（たいふう）が酷（ひど）くならないうちに投票（とうひょう）に行（い）ってくるから。」

「投票（とうひょう）ってどこなの？」

「小学校（しょうがっこう）の体育館（たいいくかん）よ。」

「ボクも行（い）く。」

学校（がっこう）の体育館（たいいくかん）と聞（き）いてのぶくんも立（た）ち上（あ）がります。

「選挙（せんきょ）だから子供（こども）は入（はい）れないの。」

ママはそう言（い）うと、

「兄（にい）やと留守番（るすばん）しててね。お腹（なか）空（す）いたらサンドイッチをいっしょに食（た）べてね。」

と、サエちゃんに言（い）いました。

「うん。サンドイッチ、サンドイッチ。」

サエちゃんはサンドイッチに大（おお）はしゃぎです。

「ボクも選挙（せんきょ）行（い）きたいよ。学校（がっこう）だもん着（つ）いてっていいでしょ。」

のぶくんはまだごねています。

「台風（たいふう）が近（ちか）づいてるの。益々（ますます）風（かぜ）が強（つよ）くなって、危（あぶ）ないから家（いえ）にいてね。」

「でも・・・」

のぶくんが口（くち）を尖（とが）らせてママに訴（うった）えました。

「サエちゃんひとりに出来（でき）ないでしょ。」

「サエちゃんも連（つ）れてけば・・・。」

のぶくんはどうしても選挙（せんきょ）に行（い）ってみたいと思（おも）っていたわけではありません。ただママといっしょにお出（で）かけがしたかっただけなのです。ママと出掛（でか）けるのが大好（だいす）きなのぶくんでした。

「のぶ、わがまま言（い）わない！」

とうとうママのボリュームは最大（さいだい）になってしまいました。サエちゃんもびっくりです。

「ごめんごめん、サエちゃんはいいのよ。兄（にい）やの言（い）うことよく聞（き）いて、お留守番（るすばん）しててね。」

「うん。」

いつも聞（き）き分（わ）けのいいサエちゃんでした。

「何時（なんじ）頃（ごろ）帰（かえ）ってくるの？」

のぶくんが寂（さび）しそうに聞（き）きました。

「投票（とうひょう）行（い）ったあと本家（ほんけ）に行（い）くから、ちょっと分（わ）からないなあ。電話（でんわ）するから。いい、外（そと）に出掛（でか）けちゃダメよ。家（いえ）の中（なか）にいなさい。」

ママはそう言（い）い置（お）いて出掛（でか）けていきました。