自転車に乗ってきた台風

元之介

第1話

 のぶくんは日曜日にちようび大好だいすきです。学校がっこうはおやすみだし、ママと特別とくべつなおものかけるのも大好だいすきでした。そしてなにより大好だいすきだったのはテレビの戦隊せんたいヒーローです。

「のぶくん、そとしっぱなしにしてあるバケツを片付かたづけてちょうだい。」

 ママがあさはん片付かたづけをはじめながらいました。

「あとでね。」

 のぶくんは日曜にちようあさにやっているテレビがたくてキッチンのせきちました。

「のぶ、今日きょう台風たいふうるんだから、そとしてあるオモチャをしまいなさい。どこかにんでっちゃうから。」

ママはすこしこわかおでそういました。

 のぶくんは、もともとはのぶちゃんとママにばれていました。でも4年前ねんまえいもうとのサエちゃんがまれて、ママはのぶくんとぶようになったのです。そしておこときはのぶとてにしました。のぶくんはこのばれかたきではありません。まえみたいにのぶちゃんとんでしいとおもっていました。

「しゅっぱつ、しゅっぱつ。」

 いま幼稚園ようちえんのサエちゃんが黄色きいろいカバンをかたからさげて玄関げんかんきました。

「サエちゃん、今日きょう幼稚園ようちえんやすみですよ〜。」

ママがやさしくサエちゃんにびかけます。

「どうして〜?」

今日きょう日曜日にちようびだから。」

日曜日にちようび、ない。幼稚園ようちえんく。」

 まだはじめたばかりの幼稚園ようちえんがサエちゃんは大好だいすきです。日曜日にちようびのこのさわぎはいつものことでした。

「のぶ、はやにわのオモチャを片付かたづけなさい。」

 ママのボリュームがすこがったようです。テレビのリモコンとおなじようにこえおおきくなりました。

 そこへパパがお仕事しごと洋服ようふく着替きかえてました。

今日きょうまりですよね。はい、お弁当べんとう。」

 ママはできたばっかりのお弁当べんとうのふたをめるといつもの黄色きいろぬのつつんでわたしました。

「ありがとう。かえりは明日あす昼過ひるすぎになるから。」

 パパは鉄道員てつどういんというお仕事しごとをしています。のぶくんは一度いちどだけパパの職場しょくばれてってもらったことがあります。そこには電車でんしゃ機関車きかんしゃがたくさんならんでいました。

 パパはまえからみんなとおやすみのちがっていました。学校がっこう友達ともだちのパパは月曜日げつようびから金曜日きんようびまで会社かいしゃって土曜日どようび日曜日にちようびがおやすみです。たまに出張しゅっちょうというがあって、そういうとき一日いちにち二日ふつかかえってこなくて、お土産みやげのお菓子かしってかえってるんだそうです。でも、うちのパパはしゅう二回にかいかえってませんでした。でも、お土産みやげはなしです。

「サエちゃ〜ん、ってきましゅね〜。」

 パパはお弁当べんとうをカバンにしまうと、サエちゃんのにぎっていました。

「いってらっしゃ〜い。」

 サエちゃんがニコニコかおでパパにうと自分じぶんくつをはきます。

「サエちゃんは、今日きょうはおやすみだよ〜。幼稚園ようちえんはなし!」

ママは玄関げんかんにおりるとサエちゃんをげてくつをぬがせました。

今日きょうは、本家ほんけったほうがいいかしら?」

 ママがパパにいました。本家ほんけというのは商店街しょうてんがいなかにあるおじいさんのいえのことです。

べつにいいんじゃないか?」

パパはなくこたえるとくつべらをりました。

「でも、そういうわけには・・・。即日開票そくじつかいひょうなんでしょ?」

 そのときのぶくんはすでにテレビのまえにいました。戦隊せんたいヒーローのはじまるのをかまえていました。だからパパとママの会話かいわ全然ぜんぜんいていませんでした。

当選とうせんすればおいわいでしょ? なに手伝てつだわないと・・・。」

きでいいよ。今回こんかいむずかしいんじゃないかとおもうよ。兄貴あにきもそんなことってた。」

「そうなんですか? そのときはなんてったらいいのかしらねえ。」

 ママはなにこまっているようでした。

「まかせるよ。親父おやじきでやってることだから、にしなくていい。」

「あなた、投票とうひょうは?」

「パス!」

僅差きんさちたら・・・えないわ。」

 ママはもっとこまったかおをしました。

 のぶくんがかまえていたテレビは天気予報てんきよほうはじまっていました。これがわればヒーローの登場とうじょうです。

『いまだにおおきな勢力せいりょく台風たいふう15ごう非常ひじょうにゆっくりとしたスピードですすんでいます。本日ほんじつ夕方ゆうがたからかぜつよまり夜半やはんにはあめして暴風雨ぼうふううになるでしょう。かえします。自転車じてんしゃなみの速度そくど北上ほくじょうする台風たいふう15ごう今夕こんゆう上陸じょうりくするもようです。』

 テレビのお天気てんきキャスターがつたえていました。

今晩こんばん台風たいふうだってよ。」

 のぶくんはいまいたことを玄関げんかんにいるパパとママにおおきなこえつたえました。

「のぶ、だからにわのオモチャをしまいなさいってってるでしょ。」

 ママのこえがまたおおきくなっていました。

「じゃあ、戸締とじまりしっかりね。」

 パパはそううと玄関げんかんきました。これで台風たいふうよるいえにはおとこはのぶくんひとりで、しっかりいえまもらなければ・・・とかんがえるようになるのはまだ数年先すうねんさきのことです。

 のぶくんは戦隊せんたいヒーローの主題歌しゅだいかをテレビといっしょにうたっていました。そこへやっと今日きょう幼稚園ようちえんのおやすみのだと納得なっとくしたサエちゃんがて、のぶくんのとなりすわりました。

「たいふう、自転車じてんしゃるの?」

 サエちゃんがのぶくんにきましたが、のぶくんは戦隊せんたいヒーローの名前なまえさけんでいます。そして、サエちゃんもいっしょにうたしました。いつものぶくんがテレビのリモコンをにぎっているので、サエちゃんはおにいちゃんが番組ばんぐみています。だからおんなのアニメではなくてこの時間じかん戦隊せんたいヒーローだったのです。でも、サエちゃんはそれをなに不満ふまんかんじてはいませんでした。

 かみをぐちゃぐちゃにしたママがました。結局けっきょく昨日きのうのぶくんがにわしっぱなしにしていたバケツと怪獣人形かいじゅうにんぎょうたいとトラック1だいひろいあつめてきたのでした。ママがかみととのえながらのぶくんをにらみつけました。

「もうかぜつよくなってるわ。ママははやめに投票とうひょうくから、留守番るすばんしてるのよ。」

 ますますボリュームアップのママがいましたが、のぶくんははじまった戦隊せんたいヒーローに夢中むちゅうでした。

「のぶ、もうおにいちゃんなんだからね!」

 ママはあきれたようにうとキッチンへもどってきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る