20 壊したかったら、壊せばいい

 ――私は、愛が減るのが耐えられない。幸せがなくなることが耐えられない。ずっとずっと二人でいたい。だから、不幸せがやってくる前に、あなたと一緒に。

 雨音に覆い隠されそうな、柔らかくか細い声音が私に向かってこぼれ落ちた。

 リビングの冷たい床に座り込み、向かい合った二人が共に夜の闇に飲み込まれている。彼女の顔が正面にあるはずだが、夜がカーテンのように遮っているせいで、表情が判別できない。ううん、きっとその表情が見えたところで、私は同じ選択をしたのだろう。

 私は頭を振る余地がない。だから首を縦に振った。

 私はもう許されない。

 私自身が私を許さない。

 後悔したいのに、うまく後悔ができない。ただ頭の中がやっぱり白くて、私が彼女との幸せ、末永く幸せであること、幸せな未来、海辺の別荘、彼女との可能性の全てを、全部、自分の手で終わらせた自覚だけが粘り強く残っている。

 私は彼女を愛しているのに、彼女への愛を否定してしまった。

 彼女を傷つける者から彼女を守りたいのに、私自身が最も残酷に彼女を傷つけた。

 だけれど私はうまく後悔できない。

 あの瞬間に覚えた多幸感を忘れられない。今も引きずっている。ぼうとする。ふわふわする。私はもう許されないけれど、私の中に私じゃない誰かが私として混じっているような異物感が未だに残る。私は解放されたと勘違いしてしまう。

 私がやっと本当の意味で、自分に掛けた期待までをも投げ捨て、どこかの誰かに成り代わったような気分。

 ねぇ、永遠ってあると思う? 永遠に変わらない愛はあると思う? 君を傷つけた私は、もう君を愛していないことになる?


「どうすればいいの?」


 私は彼女に問い掛けました。私は全ての仮面を剥がして、結局彼女の泣き顔に恋をしたちっぽけな中身をさらけ出しました。もう冷たい私を演じるのが無意味になったのです。

 彼女は柔らかい手を私の手の上に重ねました。相変わらずひんやりしているのに優しくて、無邪気に彼女を愛せた頃の気持ちを僅かながら思い出しそうになります。

「壊したかったら、壊せばいい」

 悪魔の声とはこんなに澄んだ響きをしていたのでしょうか。彼女は普段と何一つ変わらない声で、私の耳に囁きました。

「あなたが私を好きでいてくれるなら、私はどんなあなたでも受け入れるよ」

 彼女は、許してくれると言うのです。

 私はその後いくつか狂った質問を上の空で口にしましたが、彼女はどれも笑って快諾しました。恐ろしいことに、私はそれを実行しようと思えました。たとえ彼女の人生を崩壊させてでも、私は彼女を手に入れたかったのです。

 ああ、カーテンの隙間から夜の町が見えました。水平線を隠すビルの上、赤い光が点滅しています。あそこより遠い場所に、本当に海辺の別荘があるのですか? 彼女に出会った頃は、簡単に手が届くと思っていたのに、今の私はその存在すらも疑わざるを得なくなりました。

 この夜、私と彼女は永遠に添い遂げる約束を交わしました。しかし、凄惨で儚く美しいあの結末を、私は受け入れることができるのでしょうか?

 分からない。もう何も考えられない。


 恋は人を狂わせる。

 始めから、私はいつでも狂えたのだろう。

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