第15話

 エルフの森は一番最初にタカシが倒れていた場所から見た高層ビルにも及ぶ高さの樹木が立ち並んでいた。しかしエルフの里とは違い、エルフが住んでいるわけではないため、辺りは暗い。


最も里には昼間でも炎が灯っているせいで明るい。なぜ昼間に火をたくのかというと高層ビルレベルの大きな樹木が近距離で立ち並んでいるため、幾多に分かれた枝葉が重なり太陽の光を遮ってしまうため里まで光が入らないからだ。




「くらいなぁ……里とは大違いだ」




「うむ。ここからは試練の連続じゃぞッ」




「なんでうれしそうなんだよこの爺」




「まぁ長老はほんと里で寝たきりが多かったですから久々の遠出でわくわくしているのでしょう」




「そ、そんなんじゃないんだからねッ!?ツンッ」




「もうお前何キャラだよ。てかお前エルフの里でしか出てこない癖にキャラ濃すぎだから。まだ冒険始まってないから」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




「おおぃッ!ちょっとベヒ美ッ!喘がないでマジでッ!」




 突っ込みの連続でタカシは疲弊していた。ただでさえ片腕を失う程壮絶な戦いであったすぐ後なのだ。ダンジョンから脱出する際にベヒモスの背で少し眠ったとはいえ、たかが数十分のものだ。


ちなみにスキル〝スカウトン汁〟で仲間にしたベヒモスはメスだったので〝ベヒ美〟と名付けた。このベヒ美確かに強い味方ではあるのだが、いかんせん言うことを聞かない。


 突然咆哮するのが癖の様で、この森に入ってからも何回か雄叫びを上げては黙らせてを繰り返している。しかし腕を喰われてまで仲間にしたのだ。もう少し言う事を聞いてほしいものである。


おまけに左手の義手でベヒ美に触ろうとすると、威嚇してくるため義手の左手ではあまり触ることができない。義手になっているフレアのほうも心なしかベヒ美に触ろうとすると紅い焔を軽く宿す。怨敵同士が同じ主に仕えることで仲良くなるというのはさすがに難しいようである。


 森を抜けたら最強のゲームマスター長老は抜けてしまう。おまけにアリシアは世間知らずの箱入り娘。そして犬猿の仲のベヒ美とフレアとその主は豚汁使いというモンスターの使役さえなければただの食堂のおばちゃんである。そう考えると前途多難だなぁと頭を抱えるタカシであった。




「ムッ……。皆の者、備えよ!」




長老が突如足を止め、手を挙げ声を張り上げる。一同その場で臨戦態勢に入り、備える。






「その声長老か……」




感情のない希薄な声が淡々と静かな森に響く。




「エアッ!」




長老の手に魔法陣が展開され、風が吹き荒れる。樹木が大きく枝葉を揺らす。


それをかわすかの様に影がタカシの脇を横切る。




「……ッ!?ベヒ美ッ!」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




 ベヒ美の咆哮が辺りを揺らす。この近距離でベヒ美に咆哮させたのはタカシ達が対策してきたからだ。彼らの耳にはひそかに耳栓が詰まっていた。長老があえて声と腕を挙げて止めたのは相手に耳栓をつけている事を感づかれないためであった。




「くッ……耳が……」




とあっさり男は姿を現した。それをタカシは見逃さない。スキル〝豚汁〟を発動し、瞬時に左手の義手に豚汁をチャージし、フレアのスキル〝業火〟で一気に過熱すると男の背後に回り込み、羽交い絞めにしたかと思うと左手の義手で男の口を塞ぎ、熱々の豚汁を流し込む。




「喰らえッ!」




「ッ!?ハフッ、ハフハフッ、やめ…ハフッ」




 男はタカシの義手で密閉された口から流し込まれる熱々の豚汁に悶え、ハフハフしている。


まるで熱々のおでんを食べさせられる芸人の様である。しかしここは戦場。生きるか、死ぬかなのだ。タカシも手を抜くわけにはいかない。自身の全力で豚汁を生成しながら男の口に流し込む。




「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおッ!!」




「や、やめッ……ハフハフッ、ハフッ!」




と男はついに観念したようで手を挙げた。タカシが口から義手を離す。




「流石です。タカシさん」




「フフッ……フフ、シュールすぎッ」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




「ありがとうアリシアさん。そこ笑うな、喘ぐな。ッたく」




と全員に返答を返しつつも、刺客と思われる男へ視線を落とす。男はまだ熱々の豚汁の余熱に悶えている。唇が真っ赤にはれ上がってるのがその証拠だ。




「くっ……長老め、ついに里に人間を招き入れたか。我々を虐げておきながらッ!」




「え、そうなんですか長老」




 驚くアリシアを横目にタカシも長老を凝視する。長老はというとひたすら冷や汗を流していた。その様子にタカシが長老の肩に手を回す。




「……んで?そうなん?追放したんです?」




「いやぁ……それ俺の時じゃないからなぁ……この体になったのってここ一、二年の事だからさぁそれ以前の記憶はちょっとなぁ……」




「んじゃどうします?戻ってこいって言います?」




「いやぁ……さすがにいえなくね?俺一応長老だしなぁ……尊厳なくなりそうでなぁ」




「いや……自覚ないなら言うけどもうないんじゃね?俺のスキルとかみて素に戻ってたし、めっちゃ笑ってる長老みてみんなちょっと引いてたよ?」




「え、やっぱ長老ってわらっちゃダメなん?ずっと寡黙でいろってことなん?そんなんありかよ。そんな人生さすがにつまんないじゃん?少しくらい笑いたいじゃん。笑顔の絶えない里作りたいじゃん?じゃん?」




「俺にいうな。とりあえずあいつを説得しに……ってあれ」




長老とタカシが後ろを振り返った時に既に男の姿は消えてきた。そしてアリシアの姿も。




「あ、おい。ベヒ美。てめぇなにアリシアちゃんさらわれるの黙ってみてるんだよ」




ベヒ美は眠いのか、ペタリと地面に座り大きなあくびを挙げ体をぺろぺろと舐め掃除していた。




「おぉい!」




「まぁとりあえず奴らのアジトにいくしかないのぉ。あの傷ではそう遠くへは行ってはいまい」




「いや豚汁飲ませただけなんだけど。精々やけどくらいのもんなんだけど。まぁいいやとりあえず後を追おう」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




「だからうるさいって……む、これはぁッ!?」




「足跡かのぉ……」




 間抜けな事にしっかり足跡を残していったのでこの足跡をタカシ達を追う。人一人担いで逃げているのでそんなに遠くにはいってはいないはずなのだが。


足跡を追って二キロ程森の中を歩いた所であった。アジトらしき建物が森の中に目立つようにたっていた。




「あ、これはぁッ!?」




「驚き方がチープすぎやせんかのぉ……こ、これはぁッ!?」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




二人と一匹が見たのは壮大な建物であった。そこに建っていたのは城の様な建物であった。


 そして大きな看板には『ラウンド5』と書かれていた。




「……あれ俺聞いたことあんだけど。消されそうな名前してるんだけど。数字しか違わないんだけど。アミューズメントパークみたいな名前してんだけど」




「んー……まぁ異世界にも娯楽施設必要だからね。あれがアジトならちょっとあそんでくのも手じゃのぉ……」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




「いや、乗り気なとこ悪いけど、あんた孫さらわれてるから。あそこは敵のアジトだから。別に遊びに行くんじゃなくて俺たちはアリシアちゃんを助けに行くんだからね?OK?」




「OKッ!」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




と一人と一匹は親指を立てグットサインを出す。そして『ラウンド5』にて駆けて行った。




「これほんと大丈夫かよ」




とぼやきつつ、遅れてタカシも一人と一匹の背を追うのであった。

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