第16話

 建物周りは木製でしっかりと整備されていて、入り口はよくファンタジー作品などに出てくる酒場の様な大きなスイングドアになっていた。ドアの間からは微かに残光が漏れ出ている。




「……よし入るぞ」




 タカシが一人と一匹に合図をし、両名頷く。ちなみにベヒ美は待機させた。現代日本の娯楽施設に名前が似ているため、もしかしたら一般人がいるかもしれない事を考慮したためだ。そしてタカシが合図と共にドアを勢いよく、開いた。ドアに掛かったベルが入場と共に、館内に鳴り響いた。




「いらっしゃいませー」




「……ん?」




「思ったよりも、これは」




 館内は木のマークが大きく描かれたカーペットが全体に広がっていた。フロントには女性エルフが笑顔を浮かべながら丁寧な接客をしてくれた。




「こちらが当館で楽しめる娯楽の一覧でございます」




「ふむ。どれにしようかなぁッ!?」




「おい。テンション上がってるとこ悪いけど目的が違うぞ長老。あのぉ少しお伺いしたいのでしゅ……ですが」




「フォッフォッフォッ……コミュ障乙」




「うるさい。あの男性と、これぐらいのエルフの女の子来ませんでした?」




女性エルフスタッフはにっこにこの笑顔で丁寧に対応してくれた。




「はい。恐らく先程こられたお客様かと。片手に抱えてましたので。恐らく〝ブゥオールィィング〟のコーナーにいらっしゃいます」




「ブゥオールィィング、ですか?」




「はい。恐れ入りますがやったことがおありでない?」




「えぇ。なんとなく思い当たる遊技は知ってるんですけどまさかこの世界で、ハハハ。まさか、多分違うと思うのでご説明一応お願いしてもよろしいでしょうか?」




「はい。横幅一メートル、長さ二十メートル程のレーンに木製のボールを滑らせて、十本あるピンを倒してスコアを競います」




「う、うん。マジか。やべぇ似たような遊び知ってるわ。発音以外まんま一緒だわ。恐ろしいことに日本のラウンド〇とまんまだわこれ」




「フォッフォッフォッ……勘のいいタカシは嫌いだよ」




「黙れじじい。お前もはや……もういいや。んじゃお姉さんそれでお願いします」




「はい。かしこまりました。フリータイムでよろしいでしょうか?」




「えぇ。それでお願いいたします」




「はい。二千ゴールドになります」




「先払いなんだなこっちのラウンド……5は。長老頼めますか?」




「うむ。よきにはからえ」




と長老がローブから金銭の詰まった小袋を置く。どっしりとした重さの金属音がガシャリと鳴る。女性エルフはそれを確認せずにカウンターの下にしまった。恐らく重さ的に確認するまでもないと判断したようだ。




「それではよいゲームを」




「うむ」




「あんたすげぇな……大判ぶるまいやな」




「うむ。一応長老だからの」




「尊厳守るって大変だなぁ……俺には無理そうです」




「うむ。これからは長老の偉大さを噛みしめながら冒険に挑むがよい」




「それはちょっと難しいかなぁ」




「むッ……あそこぞ」




 長老が指を指した方に視線を向けるとそこには、男と台の上に横たわっているアリシアの姿があった。




「よくも私のぷりてぃな唇をこんなにしてくれたな。しかしここまで来た事は誉めてやろう。私が第一の刺客、ボウ・オブザ・リングだ。私を倒せればこの少女を返してやろう。しかし倒せなかったときはその命をもらうぞッ!」




「くそッアリシアさんを人質に取られてる以上これはうけるしかありませんね」




「うむ。しかし物量だけなら我々に軍配が上がる。先程貴様も痛い目にあったばかりじゃろ?」




長老の一言にボウはニヤリと笑った。




「誰も純粋な殴りあいをするとは言っていない。この場に来た意味、それは純粋な娯楽をするためだろう?あみゅーずめんとを楽しむ場なのだからここは純粋なあみゅーずめんとで勝負するに決まっていよう」




「このブゥオールィィングで勝負という事か」




「男同士の一人の女性をめぐる戦い。一対一の勝負を要求する!」




ボウの要求にタカシと長老は顔を見合わせる。そして同時に一呼吸大きく息を吸い込んだのちに叫んだ。




「「ベヒ美ッ!!」」




ドガァァァァアアアンッ!




 ブゥオールィィング場の壁が轟音と共に爆散し辺りに散らばる。


土煙の中一角の巨大な獣のシルエットが姿を現す。




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




ベヒ美の姿にボウは圧巻されている。




「き、貴様らッ!?卑怯だぞ!ベヒモスを出してよこすとは何事か!?」




その言葉に長老が不敵に笑う。




「貴様は我々の中から一人といったろう。ならば我々のパーティーにいるベヒ美でも問題はなかろう」


「一人?一人ってなんだっけ?一人っていうより一匹じゃん?クッ……。フハハハ。獣如きで私を倒せるかな?物量の勝負ではない。これは純粋な娯楽での勝負さ」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




「ヒエッ……」




「はやく始めようぜ。おじさん。こっちは時間があまりないんです」




 タカシがひらひらと手をふりベヒ美を落ち着かせる。


ベヒ美は相変わらずフーッ、フーッと荒い鼻息を吐きつつ煌々と満月の様な隻眼でボウをガンつけている。そのベヒ美の視線におびえながらも、玉を握りレーンの前に立ち、構えた。




「では私からいくぞぉ!私の誇りをかけた一球が天を穿つッ!!必殺ッ砲・天・撃ッ!」




 横凪ぎのフォームはドリルのような螺旋回転を生み、僅かに横にずれた位置に着地しつつも、縦の回転で徐々に中央へと軌道修正し十本のピンの中央へと的を確かに捕え直撃する。縦の回転が生み出す衝撃にピンが外部へと弾き飛ばされ十本すべてが散る。


上から看板が降りてきてそこには手書きで『すとらいく』と綴られていた。


そして視線をボウに戻すと彼は誇らしげなドヤ顔を浮かべこちらをちらちらとみていた。




「どうだ。これが私の実力だッ!お前らに私を超えられるかな?」




 ボウの笑みに応えるかの様にタカシも不敵に笑う。そしてボールをベヒ美の足元に設置する。ベヒ美は気合十分な様で、鼻息を荒げ、視界は確かに十本のピンを捕えている。




「イケッベヒ美ィッ!!」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




 咆哮と共に、助走のついた前足から蹴られたボールは宙を凄まじい速さで加速する。しかしベヒ美は助走をつけすぎてそのまま、レーンを体ごと横凪ぎに倒れながボールと一緒に滑って行ってしまった。




「アッ……ずるいぞ貴様らぁッ!?」




ボウが声を荒げる。しかしこれが彼の命運を分けることになる。ボウの声にベヒ美の視線がボウのほうへ向いた。


そしてタイミングよく、宙を舞うボールはピンの上の壁に跳ね返り戻ってきてしまった。


そのボールをベヒ美の後ろ脚が確かに捕えた。




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




 咆哮と共に後ろ脚から繰り出された砲丸の様な一撃がボウ目掛けて射出される。




「エッ……ちょッ、おま」




 ボウの顔面にボールがめり込んだかと思うとその衝撃を殺しきれるはずもなく、そのまま吹き飛び、壁に激突した。土煙の中壁にめり込んだボウが気絶していた。彼の口が僅かに開く。そしてレーンを滑っていったベヒ美もピン目掛けて壁に激突する。




「こんなん……あり、かよ」




 この言葉を最後に彼の意識は途絶えた。タカシはブゥオールィィングの玉を彼の御前に添える。そして一言。




「これぞベヒ美の新たなる必殺技真・砲天撃よ。楽しかったぜ。また何時でも挑みに来るといい。何度でも相手になるぜ」




 そして後ろにくるりと体を回し、その場を後にした。タカシ的には人生で一回はいってみたいセリフであったので一つ願いがかなったためニヤニヤが止まらなかったのはタカシだけの秘密である。




「んー……はッ、私は一体!?」




 タイミングよくアリシアも目を覚ました。皆とりあえずアリシアの元へ集う。




「大丈夫ですか?アリシアさん」




「えぇ……私は一体、何を」




「フォッ、フォッ、フォッ。あの壁にめり込んでいる男に誘拐されたんじゃよ。まぁ最も我々の敵ではなかったがの」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




「そうでしたか……ご迷惑おかけしてすみませんでした」




 ペコリと頭を下げるアリシア。そしていい子だなぁとひげを撫でながら和む長老。とりあえず目覚めの豚汁をアリシアに差し出すも、ベヒ美に横から奪われるタカシ。


その姿を密かに刺客達が隠れて見つめていた事に彼らは気がつかなかった。




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