第6話 サトーの話4

入って一か月目からスパーリングを始めて、それでも2か月間

ほどは、あの双子はかなり手加減してくれていたんだな、と後で

思った。


実は学生時代に球技をやっていて、けっこうなところまで行った

んだ。運動神経には自信があった。そりゃ30代でなまってた

部分もあるが、最初の1か月の地獄のような筋トレや走り込みで、

かなり戻っていたはずだ。


しかし、最初の一か月が天国だったのはすぐ判明した。

とにかく立っていられない、ひたすらボコボコにされる。

いや、一応こちらからも攻撃させてくれる。でもすべて、

打とうが投げようが、すべてカウンターで返される。


たまに部外者が合同練習にくるが、双子とけっこういい勝負を

していた。どれだけ強いんだとあとで聞いてみたが、外の

人間にはあまり技を見せないらしい。とくに試合で当たる

可能性のある人間には。


たまにジェレイドも練習にくる。そりゃもちろん最初のうちは

ボコボコにされてたが、日が経つにつれ、ジェレイドとは

そこそこやりあえるようになっていた。いや、もちろん負ける

のだが、耐えられる時間が少しづつ延びてくる。


とはいえ双子には相変わらずやられっぱなしだった。

こちらの実力が伸びるのにあわせて段階的に手加減をなくして

いっているように見える。むしろ、こっちが弱くなったのかと

感じるときさえある。


妹のジェシカは優しい。

いつもスパーリング後のアドバイスがてらフォローしてくれる。

「あなたはセンスが良くてリズムがあるから技にかかるのよ」

「センスのないひとと練習すると強い選手でも調子が落ちるから」


プロなのにおれみたいなのと練習してていいのか聞いてみた。

「たまに格下と練習して、勝つイメージを作るのも重要なのよ」


うーむ。



妻は元々料理が得意だったので、ジムの料理班に入って

はりきっていた。格闘家の体を作るための料理は

いろいろと制約が多くなってくるが、そこがかえって

面白いらしい。


記事も開始して1か月も経たないうちに人気が出てきた。

それは、ジェニーとジェシカが人気があり、彼女らとの

練習を記事にしていることもあるが、とにかくこの

ジムはいろんなところにいっていろんな練習をする。


打撃系か、投げ技か、というレベルではない。とにかく

あらゆる格闘技の練習をする。それも、最新理論に基づいた

かと思えば、ものすごく古風な練習法もやる。


そして料理も、練習メニューをあるていど考慮した

ものになっているらしい。つまり、ジムに入門どうこうと

いうよりも、単純に健康法的な面で人気が出た。


もちろん、私が毎日ヘロヘロになっていることは書かない。

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