第7話 サトーの話5

とにかくこのジムはよく泳ぐ。

この流派の特徴らしい。常に水をイメージしろだと。


こっちはスパーリング中にそんな余裕はないんだよ。


でもまあそこまではいい。おれはなぜかほぼ毎日、ドラム

を叩く練習をやらされている。リズムが大事なんだと。

納得いかないが、ジェシカにそう言われると何も言い返せない。


そうだ、楽器と言えば、あの女の子、アミのことを

書かなければならない。まあ単純にいうと、強かった。


一応ジェシカに血縁かどうか聞いてみたが、違うという。

もともとやっている音楽活動の関係で、週に3回トレーニング

に参加できるかどうかという感じだが、数か月でどうも

おれとは違う特別メニューも秘密の部屋でこなしているらしい。


スパーリングも、むしろ最初のうちのほうがいい勝負できた。

技を覚える速度が半端なく速いらしい。若いからだと

思うようにしている。双子ほどボコらないのは自分の指

を気遣って、アーティストだから、と本人談。


もちろん楽器もおれよりうまい。本人の専門は弦楽器らしいが

ドラムも他の楽器もうまい。そして、ドラムの先生になって

くれている。金は払わなくていいよ、とのこと。


おじさんには若い世代の音楽の話はよくわからないが、

その方面ではけっこうな有名人なのかもしれない。


そう、有名人と言えば、ドン・ゴードンと双子の練習を

みることができた。無差別級で世界ランカーの、このジム

男子でおそらく最強のひとだ。サインをくれと言いたい。


勉強のためにスパーリングを見ていいという。

この日は主にジェニー相手に試合形式で練習していた。

印象としては、当然というか、ジェニーがおされぎみだった。

無差別選手相手に渡り合えるだけで充分なんだけど。


だが、そのあとジェシカが教えてくれた。

ジェニーが不利になるルールでやってたんだと。例えば、

ジャケットマッチ。掴み易くなれば小さい方が確かに不利か。


ほかにもあるのか聞いてみた。

「股間にひじうちを決めてはいけないとかー」

「練習だからケガさせてはいけないとかー殺してはー」


なるほど。


「まあそのうちわかるよ」らしい。

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