第3話〖コロンブスの凱旋、新大陸府総督権の授与とその御礼〗

コロンブスはこの発見した島をサン・サルバドル島と名付けた。

【※20】


コロンブスの部下の一人で通訳者がサン・サルバドル島先住民と接触した。


案の定、言葉は全く通じなかった為に苦労したものの、身振り手振り持ち物等を加えて段々と意思疏通が可能となって来た。


先住民達は、自分達の事をアラワク族だと言った。


アラワク族『わし等この地の住民は昔からずっとここに居る。

あんたらはどこから来なすった?』


通訳者『私達は、遥か海の向こうの東の大陸半島、カスティ………(ムグッ)』


コロンブスは通訳者の口を塞ぎ、サタン(悪魔)の様な笑みを浮かべてこう言った。


コロンブス『我々は天の使いである。

空の彼方から天空船でやって来たのだ』


バルトロメ『兄さん?!』


ジャコモ『兄者!!』


アラワク族『何っ?

天の使いだと?』


アラワク族達は互いに目を合わせ笑い転げた。


アラワク族『アッハッハハハハハ!!!!!

何を言うかと思えば!!』


コロンブス『嘘ではないぞ!!!

よし。

貴様達よ、我々を疑う気持ちを一つ、取り除いてやろう。


私は、月を消す事が出来る!!!!!』


アラワク族『………………………はぁ~~~~~?????』


アラワク族達は再び笑い転げた。


コロンブス『笑うなら笑うがよい。

その様にしていられるのも今のうちである。


この後、数日間、私は天の神に祈って力を蓄える。

そしてその日が来たら、目の前で月を消すであろう』


アラワク族『言ったな!!

消せなかったら我々を騙した罪、重いぞ!!!

酷い事をするぞ!!!』


コロンブス『良いだろう』


………………………そして、数日後の夜………………………


コロンブスは、アラワク族達の前で月🌕に向かって祈りながら唱えた。


コロンブス『天と地に、しるしを示す。

それは、血と火と煙の柱である。

主の日、大いなる恐るべき日が来る前に 太陽は闇に、月は血に変わる。

❨ヨエル書 3:3‭-‬4❩


わたしは、天に喪服をまとわせ、粗布で覆う。

❨イザヤ書 50:3❩


天の全軍は衰え 天は巻物のように巻き上げられる。

ぶどうの葉がしおれ いちじくの葉がしおれるように その全軍は力を失う。

❨イザヤ書 34:4❩


全能の神よ!!

我、クリストバル・コロンの名に於いて命ず。

月を消したまえ!!!』


月🌑が、みるみる消えて行く。


アラワク族『あっあっあーーーー!!!!!


た、助けてくれええええ!!!!!

月が!

月があああああ!!!!!』


アラワク族は恐怖のどん底に堕ちた。

それを見てコロンブスはニヤリとした。


コロンブス『見たか。

これで我々が天の使いだと解ったろう』


アラワク族は震えながら答えた。


アラワク族『わっ解りました!!

何でも差し上げますからどうかお助け下さい………………………』


コロンブス『この力はすぐ切れる。

だから心配しなくとも良い。

それより、力を使い過ぎた様だ。

腹が減ったから飯を持って来い』


アラワク族『ははーーー!!!!!

天子様!!!

よく我々の所に居らして下さいました!!!』


………………………こうして、コロンブスは手練手管てれんてくだろうし、サン・サルバドル先住民・アラワク族達を洗脳したのであった。


彼等はコロンブス一行の事を本当に天の使いの人々だと思い、熱烈大歓迎した。

【※21】


更に、コロンブス一行が先住民達と取引をすると、大した事のない陳腐な物でも、欧州に持ち帰れば高く売れそうな物と交換して貰えた。


例えば、トランプカード🃏のキング一枚だけで獣肉10頭分と真珠や水晶等と交換してくれたのだ。


コロンブス一行は、現地に留まる事になった39名の水夫を残し、他の乗組員達と共に船に乗り、カスティーリャ王国に向けて出港した。


その直前、損傷の激しかった一隻の船を解体し、その部品で39名の在留水夫達の為の要塞を建造した。


その為、欧州に戻ったのは2隻の船であった。

【※22】


翌年3月15日にサルテスの川口に戻り着き、無事カスティーリャ王国のアランブラ宮殿へ帰還した。


アランブラ宮殿及びその周りでは、コロンブス一行の航海探索大成功を祝い、派手なセレモニーが開催された。


王宮にて航海記録を報告すると、発見した島は取り敢えずアジアの島ではない事が判明した。


しかし、カスティーリャ王国にとって海洋を渡った西側の、未知の島々や大陸は後に莫大な利益をもたらすであろう事からこの航路を見付けたコロンブスの功績は非常に大きく、国をあげてコロンブスを称えた。


尚、この島々と周りにある大陸地を総称して西印度諸島インディアス・オクスィデンタレス、若しくは、新大陸コロンビア(コロンブスの地)と呼称された。

【※】


イサベル女王👸『出来でかしたっ!!!

素晴らしい!

其方を信じて任せた甲斐があった!!』


コロンブス『ははっ!!

お褒めに与り光栄です、イサベル女王様。


こちらは、現地で得た品々でございます』


コロンブスは新大陸で手に入れた物の数々をイサベル女王の前に披露し、王国へ納めた。


イサベル女王👸『ほう………………!!

これはこれは中々珍しい物もあるな………!

よくやった!!』


コロンブス『ところで、女王様。

新大陸住民について是非とも申し上げたき儀が御座います。


御報告賜りたく存じますが、宜しいでしょうか?』


イサベル女王👸『どうしたのじゃ?

コロン。

申してみよ』


コロンブス『はっ!

発見した島の住民に、一本足人、一つ目人、犬頭人、無頭人の様な怪物人は一人も居りませなんだ!!!


マンデヴィルの旅行記📕に記載されている事は全て嘘で御座いました!!!!!』

【※】


それを聞いた女王の周りの者は、皆凍りついた。


何故ならば、イサベル女王以外の殆んどの者は、世界の果てに怪物人が居ると思い込んでいたからであった。

それが当時の常識であった。


イサベル女王は一瞬非常に驚き、その後、天にも昇りそうな歓びの表情を浮かべて玉座から立ち上がり、周りの者に向かって叫んだ。


イサベル女王👸『聞いたか?!

聞いたか?!

聞いたかーーー!!!!!


妾の言った通りであったろう!!!

やはり、別大陸に怪物人は居ないのだ!!

﴾人間は全て人間﴿ぞ!!


聖書に世界の果てにその様な者が居る等と書いてない!


やはり、人間は、神が御自身に似せて創られた者だったのだ!!

Aleluyaアレルヤ!!!【ハレルヤ】』


イサベル女王は玉座に座り直して言った。


イサベル女王👸『本当に、本当によくやってくれた!!

コロンよ妾は嬉しいぞ!


しかしの………………コロン。

本当は其方に能う限り沢山の褒美を与えたいのじゃが、出港前の取り決めの


“自身の取り分は持ち帰りし財宝の10%で良い”


という我が王国との契約。

こればかりはどうにもくつがえせぬのじゃ。


代わりに他の望みなら聞くぞ。

遠慮のう話してたもれ』


コロンブス『は………………………ではまず爵位を頂きとうございます』


イサベル女王👸『うむ、爵位か。

妾も、其方の自身の名誉の為にも称号を得ておく事、もありなんと考える。


良し。

其方に爵位を与え、騎士カバリェロの称号にする様、妾から陛下に口添えしておこうぞ。


他にはあるか?』


コロンブス『はい。

次回の新大陸航海に於いては、もっともっと大人数で、大掛かりで探索に取り組もうと思っております。


就きましてはその準備をお願い出来ますでしょうか?』


イサベル女王👸『帰ってきたばかりなのにもう次の航海の話しかえ。

気の早い事じゃが、頼もしいのう。

………良かろう!


既に成功してる訳じゃから次回の航海許可はすんなりと下りよう。

国をあげての水夫の募集も、船の調達もこちらでやろうぞ』


コロンブス『ありがとうございます。

最後に、発見した島々の統治についてですが、この私目に全監督権を頂けますでしょうか?』


イサベル女王👸『何?

全監督権とな?』


イサベル女王は大胆不敵な笑みを浮かべた。


イサベル女王👸『………ほう!

………………じゃが、全ての監督権も兼ねるとなると大変じゃぞ。


これまで欧州文明人と触れ合った歴史無き民族との調和、おいそれとは行かぬであろう。

覚悟は出来ておるかえ?』


コロンブス『勿論です。

彼等は私達一行の事を天の使いと思い、もてなしてくれました。


今後もきっと上手く行く事でしょう。

私奴わたくしめにお委せあれ!!』


イサベル女王👸『良かろう!!

今後は新大陸総督を名乗るが良い!!

新大陸府の全監督権を其方に託し、任せよう。


見事統治せよ!

呉々くれぐれも、先住民達とは仲良うの!』


コロンブス『ははーーっ!!』


      ・ ・ ・


コロンブス爵位拝領の件は、イサベル女王の推薦により、直ぐに通り、国王フェルナンド2世の認可を得た。

そして後日、叙任式が行われた。


イサベル女王の前にコロンブスは跪き頭を垂れた。

そのコロンブスの肩を、イサベル女王が長剣の平で叩いた。


これが、騎士カバリェロの爵位拝領の慣わしであった。

その一連の流れが終わった、その時であった。


イサベル女王が、十字架の首飾りを用意した。

その十字架の首飾りは、全て金で出来ている、非常に高価な物であった。


イサベル女王は、その首飾りをコロンブスの首にかけた。


コロンブス『こ………これは………………!』


イサベル女王は微笑みながら答えた。


イサベル女王👸『これは此方こなたの爵位授与祝いを記念し、妾からの贈り物じゃ』


コロンブス『こ、こんな素晴らしい物を!!!

有難う御座います!!

これは一生の宝にしま………………………』


コロンブスの目の前にイサベル女王のとても綺麗な顎が映り、それが近付いて来た。


コロンブス『え………………』


次の瞬間、コロンブスの額に、小さな小さな天使👼が二枚の羽を着けて休んだ。

その感覚は、涼しく快適な楽園パライソで跳び跳ねて遊んだに等しかった。


小さな小さな天使👼が休みを終え、ゆっくりと翔び立つと、コロンブスの目の前に超美人であるイサベル女王の頬が美しい桃色に染め上がっていて、微笑していた。


イサベル女王👸『フフフ………………』


コロンブスの顔はまるで茹で蛸の様に真っ赤になっていた。


コロンブス『イ、イサベル女王様………………!』


天使が着地する瞬間、周りにいた兵士達や執事達の多くはハッとし、横を向いたり目を瞑ったりした。

【※】


だが、一部の者はその瞬間を直視した為、あんな御美しい方に!

と、非常に羨ましがる者やコロンブスに対し嫉妬心を抱く者もいた。


当然であった。

イサベル女王は実に多くの者の憧れの的であった。


加えて、例外事を除き、国王フェルナンドⅡ世以外はイサベル女王に近付く事すら許されなかったからであった。


      ・ ・ ・


こうして爵位と新大陸の全監督権(総督権)を得たコロンブスは、17隻、約1500名を連れて再び新大陸へと向かって行ったのだった。


………………………それから2年後……………………


カスティーリャ王国アランブラ王宮のイサベル女王の間に、新大陸総督府総督コロンブスからの使者が参上し、謁見を申し出た。


兵士💂『女王様!

新大陸総督コロン殿より使者が参っております!


イサベル女王様宛に献上品を用いましたので、是非受け取って頂きたいと申しております!』


イサベル女王は驚きと伴に悦んだ。


イサベル女王👸『何っ!!

コロンから妾に献上品じゃと?!

殊勝な事よ!

喜んで受け取ろうぞ!!』


兵士💂『ははっ!

では使者の者を連れて参ります!』


それから間もなく、コロンブスの使者が兵士に連れられ、女王の間にやって来た。


この使者はコロンブスの忠臣、ホセ・デ・サラマンカであった。


サラマンカはイサベル女王に対し跪(ひざまづ)き、帽子を取り、うやうやしく頭を垂れた後に再び帽子を被り直して述べ始めた。

【※23】


サラマンカ『女王様。

その御美しい御姿を御拝顔出来て恐悦至極の極みに御座います。


私は新大陸総督府コロン総督の配下の者で名はホセ・デ・サラマンカと申します』


イサベル女王👸『おお、其方は以前コロンと共に新大陸へ向かった者達の内の一人じゃな!!


サラマンカよ、遠路遙々(えんろはるばる)、誠に御苦労であった!

して、コロンは無事息災かえ?』


サラマンカ『はっ。

我が主コロンは、二度目の新大陸に着いてから間もなく病を患い、暫(しばら)くの間は伏(ふ)せておりました。


しかしながら、最近はすっかりと体調が良くなり、健康に気を遣いながらも精力的に現地の統治活動をしておられます』


それを聞き、イサベル女王はとても心配そうな表情をして言った。


イサベル女王👸『………なんと!

病臥(びょうが)に伏せて居(お)った時期があったと申すか。


コロンに呉々も無理だけはせぬよう、宜しく伝えておくれ』


サラマンカ『はっ!

女王様からの有り難き労(いたわ)りの御言葉、我が主コロンに確(しか)と御伝え致します。


きっと、さぞかし喜びましょう!

さて、我が主コロンは現地にてこう述べておられました。


“この度の新大陸の統治に関しては、女王様の叡智による決断が無くば到底達成出来なかったであろう。

感謝の形として是非とも御礼がしたい”


と。

私は新大陸より、その御礼の品々を運んで参りました』


イサベル女王は瞳を閉じ、嬉しそうに想いを馳せながら言った。


イサベル女王👸『………………コロンの気遣い、妾はとても嬉しく思う。

その優しさ、身に沁みる想いぞ。

喜んで受け取ろう』


サラマンカ『はっ!

ではその品々を呼んで参ります。

しばし御待ち下さいませ』


それを聞いてイサベル女王はうっすらと目を開けながら言った。


イサベル女王👸『品々を………呼ぶ?

………………???』


イサベル女王はサラマンカの言った事の意味が全く解らなかった。


サラマンカは後方の大扉の前まで歩き、大扉に向かって、したり顔でこう言った。


サラマンカ『さあ、参られよ』


………………………しかし、大扉の向こうからは何の反応も無かった。


サラマンカ『何をしておるのだ!

さっさと入れぇ!!!』


サラマンカが大扉に向かって唸り飛ばすと、大扉がゆっくりと開いていった………………………


………………………第4話へ続く


第3話 注釈解説


【※20】

▷サン・サルバドル島………バハマにある島である。

先住民はアラワク族である。


元々、この島は現地語でグアナハニと呼ばれていたが、イサベル女王がコロンブス一行の事を何とか陸地を発見出来る様にと祈り続け、その願いが叶った様にこの島に辿り着いたので、コロンブスがサン・サルバドル(聖なる救世主)島と改名した。


【※21】

▷コロンブスはアラワク族達を集め、月食を予言し的中させた。


何も知らないアラワク族はこれに驚きコロンブス一行は天の使いの者達であると思い込んでしまった。


【※22】

▷サンタ・マリア号はイスパニョーラ島沖で座礁したので、解体して要塞を造る建築材料にした。

座礁した日付は12月24日。

皮肉にもクリスマス・イヴであった。


▷要塞の名称………コロンブスはこの要塞名をイサベル女王の名を借りてイサベル要塞とした。


この事からみても、コロンブスは自分の事を信じてくれたイサベル女王の事を慕っていた事が窺える。


【※23】

▷通常、建物に入る時、特に男性は脱帽するのが礼儀だが、イサベル女王の粋な計らいによって、アルハンブラ宮殿内に於いては着帽のままでも良いとされていた。


この使者は、女王の前なので礼儀として一応一旦は帽子を取って挨拶した。

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