第2話〖コロンブスの提案・イサベル女王の援助、そして新大陸発見〗

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 ………ユリウス暦1484年 末。


クリストファー・コロンブス【カスティーリャ語は、クリストバル・コロン】は、弟バルトロメ、そして下の弟ジャコモと共に、各国欧州王宮へ自らを売り込んだ。


“大洋を西回りに進んでアジア地方へ行けるルートがある。

上手く行けば、金や香辛料等の大量貿易が可能となる。


だが、船を買う金も水夫を雇う金もない。


誰でも良いから俺達を信じて資金提供者フィナンスィアドーラにならないか?

儲かったら俺達の取り分は10%で良い”


という内容であった。

【※11】


その際、あわよくば黄金の国ジパングに辿り着き、金塊を発見して大儲けをしようと躍起になっていたが、中々スポンサーになってくれる者は現れなかった。

【※12】


内容が内容(大事業)なだけに、ほぼ資金が潤沢な欧州王族に絞って話を持ちかけたが、誰も相手にしなかった。


成功よりも失敗に終わるリスクを鑑みれば、当然の結果であった。

【※13】


………ユリウス暦1486年5月。


ここ、カスティーリャ王国【後のイスパニア王国・スペイン】の国王、アラゴン王ことフェルナンド2世も当初、コロンブスの提案に難色を示した。


しかし、妻であるイサベル女王はこの提案に対して非常に興味を持った。

【※14】


イサベル女王は天然螺旋髪リサドの超美人で、さらに極めて知性的で政治学があり、人に対しても一人一人を大事にする優しさを兼ね備えており、領民からもとても評判が良かった。


その世界観は反クラウディオス・プトレマイオス、肯アリスタルコス派であり、この地は丸く太陽を中心に自ら動いている物だと考えていたので、コロンブスの提案が荒唐無稽こうとうむけいであるとは思わず、むしろ高い確率で成功すると踏んでいた。


イサベル女王はコロンブスに向かって言った。


“資金が足りぬと申すか。

何なら妾の身に付けている宝石を売って其方そなたの航海資金を準備してやろうか?”


これを聞いて、王・大臣等を含めた周りの臣下は慌ててそれをいさめた。


国外からやってきた爵位無き一般一市民に対して、そこまでしてやる義理は無きに等しかったからであった。


結論は議会によって決める事となった。

コロンブス企画を採用するかしないかで、議会は検討に検討を重ねた。


討論デバテに数年をかけたが、やはり成功するかどうかは運頼みな点、再征服運動レコンキスタにより自国が他国と戦争中であり、外洋探検に国家財産を割く余裕が無い点等で長く論争になり、議論は長引く一方だった。

【※15】


途中、議会参加員から幾度も


“取らぬ狸の皮算用とは正にこの事だ。

やはり取り止めよう”


との声も上がったが、イサベル女王はその度に


“結論を出すにはまだ早過ぎる。

今少し熟考せよ”


と言って、会議を引き延ばした。


………ユリウス暦1492年1月。


国王フェルナンド二世がようやくナスル朝グラナダを陥落させると、カスティーリャ王国王政政府はそれまでの王宮を異動してアランブラ宮殿パラスィオ デ ラランブラに移り住んだ。

【※16】


そして、国内情勢に余裕が出来た。

それと同時にコロンブス企画を採用しようという意見が強まり、やっと企画が通された。

【※17】


イサベル女王は資金集めの為、当時カスティーリャ王国で最も人口の多かった都市バレンシアに目を付け、銀行家をあたってみた所、出資可能と相成った。

【※18】


その資金を以てコロンブスの船や航海資金、水夫、水及び食料、現地での交換用交易品等を準備した。


   ーユリウス暦1492年・夏ー


イサベル女王👸『吉報を待っておるぞ。

必ずや成功させよ。


毎日毎日、其方そして其方達の事を祈っておるからな。

コロン』


コロンブス『はっ!!

命に代えましても!!』


イサベル女王👸『うむ(ニコッ)』


コロンブス『イサベル女王様。

女王様には日々、言葉には表せない程の感謝をしております。


どこの国に行っても信用して貰えなかった我々三兄弟を、女王様だけは唯一信じて下さいました。


こうして外洋探索航海に出れる事になったのは、女王様が議会で強く後押しし、数年に渡り粘って戴いたお陰で御座います。


そして、それどころか我々の住まいの御世話もして戴き、至れり尽くせりとは正にこの事です。


女王様………………。

必ずやこの御恩を御返し致します。

期待して御待ち下さい!!!』


イサベル女王は力強く笑みを浮かべて言った。


イサベル女王👸『よくぞ言うた!!!

コロン!!

流石、わらわが見込んだ男よ!!


行け行けコロン!!!

どんと行け!!

じゃ!』


コロンブス『はっ!!!!!』


こうしてコロンブスの艦隊は8月3日にサルテスの川口から出港し、西へ西へと向かった。

【※19】


イサベル女王は、毎日コロンブス艦隊の無事を祈り続けた。


❪恵み深い天の父なる神よ。

彼等を試みに会わせず、どうか彼の地へ送り届けて下さいまし。


父と子と精霊の御名によって アーメン………❫


そして10月12日………………


コロンブス艦隊の一行は、住人の住む島を発見した。


コロンブス『|Gloria in excelsis Deo!《グローリア インエクセルシスデオ》(いと高き処、神に栄光あれ!)【ラテン語】』


コロンブス以下、船乗り達は喜びと歓喜に満ち溢れた。


この一帯に住む先住民(島民)は肌の色が浅黒かったので、コロンブスはこの島はインド付近にある島々の内の一つなのではないかと考えた。


………………………第3話へ続く


第2話 注釈解説

【※11】

▷得た財宝及び収益の10%しか貰えず、残り90%も出資元に納めなければならないとは何たる法外高利なロイヤリティーか!!


………と、思うかもしれないが、この時代、歩合1割は寧ろ破格の待遇条件である!


全く取り合わない王国もある程であった。


しかもコロンブスは、スポンサーに対して資金、人員、船舶、航海用具等、諸々の負担願いをするばかりか、外洋探索許可を得るに至る迄の長期会議中の間は、宿泊所までもずっと無料で提供して貰っていた。


【※12】

▷黄金の国ジパング………恐らくコロンブスが読んだ本、マルコ・ポーロのil milione《イル・ミリオーネ》の影響であろう。


因みにil milioneを書いたのはマルコ・ポーロ本人ではない。


マルコ・ポーロがメロリア戦争に負けて捕虜となり投獄された時に牢獄の中で自身のアジア体験記を語り、それをルスティケロ・ダ・ピサが採録編纂さいろくへんさん《し、書したのが

❲il milione(100万の意味、俗に言う東方見聞録)❳である。


【※13】

▷各国が消極的………そもそも、未だ世界は丸いという事が証明されてない時代である為、一つの考えとして西の果て迄到達した瞬間に船も人も消えて消滅してしまうかも知れないという不安材料もあった。


【※14】

▷カスティーリャ王国国王アラゴン王フェルナンド2世、及びその妻イサベル女王。


共にキリスト教カトリックの信仰深く、カトリック両王と呼ばれた。


また、今日に於けるイベリア半島のスペインの領土を創ったのは、この時代のアラゴン王フェルナンド2世の圧倒的武力と、イサベル女王【一世】の優れた智力に因るものだと言ってよい程、多大な影響があった。


【※15】

▷レコンキスタ………キリスト教に於けるイベリア半島の国土回復運動の事である。


1482年、グラナダで内乱が発生した。

これを好機と見て、カスティーリャはグラナダへの侵攻を開始した。


1486年までにグラナダの西半分を制圧、1489年までには残りの東半分も制圧した。


1490年、カスティーリャはムスリム勢力最後の拠点グラナダを包囲した。

グラナダは2年間にわたる攻囲戦を戦い、その間にカスティーリャは軍事拠点としてサンタ・フェを建設した。


1492年1月6日、アルハンブラ宮殿が陥落し、ナスル朝は滅亡、レコンキスタはここに終結した。


【※16】

▷alhambra………スペイン語ではH《アチェ》は発音しないので、正しい読み方はアルハンブラではなくアランブラである。


しかし日本語では一般的にアルハンブラ宮殿と呼ばれている。


アルハンブラ宮殿は、イベリア半島がムスリムの勢力圏内にあった時代に建設された壮麗な宮殿である。


スペインのグラナダにあり、13世紀のアルアマール王によって建設されたナスル朝時代の王宮兼モスクである。


建物は白を基調としているが、アルハンブラとはアラビア語で「赤い城塞」を意味するアル=カルア・アル=ハムラー (القلعة الحمراء, al-qal‘ah al-ḥamrā') と呼ばれていたものが、スペイン語において転訛したものである。


蛇足だが、フェルナンド2世がナスル朝と激戦中、イサベル女王は国王が必ず勝利する様にとの願掛けなのか、下着をずっと変えなかった。


3年間履きっぱなしの下着を脱いだ時、下着は茶灰色に変色していた。


この事から茶灰色の事をイサベル色と云うようになったのだ。


【※17】

▷カスティーリャ王国内での企画審査の時間があまりにもかかり過ぎ、そのまま数年経過した為にコロンブスは時間の無駄を思い、ヤキモキしたまま企画書を携え驢馬ロバで隣のフランスに向かって行った。


分裂国家イタリアは論外、英国も駄目ポルトガルも駄目スペインも駄目ならフランスしかあるまいと思ったからであった。


コロンブスが旅立ってしまった直後に審査が通ってしまったので、イサベル女王は慌てた。


イサベル女王の使者が馬を飛ばし、国境近くギリギリの所でコロンブスに追い付き、企画が通った事を告げて連れ戻したのであった。


【※18】

▷バレンシアの銀行家に融資を受ける………ナスル朝グラナダ王国との戦いは長期にわたって苛烈極まった。


此によりカスティーリャ王宮の金庫は底の状態にまで陥ってしまっていた為、航海資金の捻出方法は銀行から融資を受ける以外に無かった。


【※19】

▷計3隻の船がサルテスの河口から出港した。


其々の船名は、旗艦処女聖母サンタ マリア号・ニーニャ号・黒子ピンタ号である。


サンタ・マリア号は元々はマリガランテ号という船名だったが、名の意味は娼婦だったのでコロンブスが機嫌を損ね改名した。

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