1章20話

「貴様ァ!」


 俺を睨みながらライが剣を構える。

 なるほど、ライ自体は俺を殺す気で向かってくるらしい。良い肩慣らしだ。悪いけど普通に戦わせてもらう。鉄の剣を抜いて戦う覚悟を決めるために頬を軽く叩いた。


「手助けは?」

「いらないよ。この程度ならね」


 若干の挑発の意味も含めて二人の援護は拒否した。代わりに周囲の冒険者達を任せるんだけどな。さすがに俺のステータスでは全滅させられるだけの力はない。あったとしてもライと対等に戦えるくらいか。自分の力量くらいはしっかりと分かっている。


 足に雷を纏う。割とこれの消費量は高いからね。相手に合わせて速度を上げたつもりだけど……まぁ、名前の通りライも雷魔法には長けているだろう。


「俺を舐めるなよ!」

「別に舐めてはいない。お前は嫌いだけど俺からすれば圧倒的な格上だ。俺との相性的にもロイドより面倒そうだと自覚している」


 それでも目の前のライに勝っている部分はある。いや、大概な人には勝っている部分だ。それは俺の膨大な魔力量。ライも速度上昇を施したみたいだけど俺よりも弱い。つまり速度は対等。……俺からしたらこれ以上は後に響くから出来ないだけだけどな。


「付与」

「ちっ」


 俺の雷の付与と共に鉄の剣が雷に包まれていく。悪いけど俺は人を殺すだけの覚悟なんて持ち合わせていない。例え口先だけで殺すとは言えど、恨みを持って殺してやるとは言えても俺にはそれを出来るだけの勇気はないだろう。


 勇気がどこから勇気なのか。

 勇気は無謀にもなる。無価値な時もある。果たして人を殺すことを、自分を殺すことも勇気と言えるのだろうか。そんなことを考えた時もあった。


「殺す!」


 剣と剣をぶつけ合う。

 本当の気持ちとは裏腹な矛盾が俺を埋めつくしていく中で追撃をした。縦振りからの横振り走り距離を取ってから背後に回る。そこでも跳ね返された。


 今の俺のステータスが八百ほどでライは全ステータスが平均的に千ほどだ。二百の差は小さく思えてかなり大きい。人がどれだけ努力しようと、縮められない差があるだろう。例えば短距離走で言うところの一秒の差とかね。これはそれに近い。


 でも、場合や環境によってそれは覆せる。


「無駄なんだよ!」

「悪いな、諦めが悪いタチなんだよ」


 上から下への振り下ろし攻撃の際に鉄の剣の先に雷を集中させる。これは雷球を作る時と近いやり方でいい。俺らしくを尊重しなくて誰が俺を認める?


『明日から来なくていいよ』

『君は真面目過ぎる』

『仕事が出来ても覚えるのが遅いしね』

『分からないかい? 君は邪魔なんだ』


 そんなことを言われても俺は生きようともがいていたんだ。悪口を言われ陰口と共に嫌だと言っても終わらない。地獄がそこにはあったんだ。確かに僕はそこで生きていたんだよ。


 個性が重要だと言われながら尊重されない世界。簡単に人を裏切れる世界とは違うんだって思いたい。あの時とは違って俺は幸せを掴めそうなんだから。


 もう一度、打ち合う。

 まだだ、まだ撃ってはいけない。

 攻撃する時に悟られてはいけない。


 あの時に得たものを使え。


「さぁ、やろう」

「剣を強化したか……」


 傍から見ればそう映るだろうな。

 でも、本当の狙いはそこではない。


「……来いよ!」

「うるせぇ!」


 攻撃が来た瞬間に付与された鉄の剣で受けれたけど一撃は相手の方が重い。ステータスって概念がこの世界にはないにせよ、俺が魔眼で見えるライのステータスは俺以上だ。だから受ける前提の戦い方ではなく流す前提の戦い方が重要視される。


 俺はもう悲観した生活はしたくない。


『お兄ちゃんが不幸になる必要なんてないよ』

『お兄ちゃんの才能は妹であるウチが認めてあげるから』


 俺はもう……。


「後悔したくない!」


 流した直後にライと視線を合わせる。

 これは魔眼で麻痺を狙うためだ。あいにくと俺の魔力は高いんでね。短時間とはいえライを痺れさせるには十分な魔力がある。消費量は激しいけどな。


 一瞬でいい……一瞬でもいいからライの視界から離れられるだけの何かを……!


「ふっ!」


 今だ、そう思った時には俺の体が勝手に動いていた。モルガンの意図した攻撃ではなく冒険者を牽制するために投擲したナイフ、それを躱すために麻痺した体でライは屈んだ。


 そこを一瞬で背後に回って剣を振り下ろした。モルガン達も気が付いているようで一直線上には立たないようにしている。俺も気兼ねなく放てるってわけだ。


 これが俺の最高火力……ではないが魔力操作が出来るギリギリの魔力量から放たれる一撃だ。振り下ろしたと同時に縦一筋の眩い光が斬撃となりライの背中を傷付ける。


 ガードするには回転するだけの隙を斬撃は与えず、ただライは背中で雷の一撃を受け続けていた。徐々に着ていた服が燃え尽きていきライの足が浮き始める。その直後にライが吹き飛ばされて頭から壁へと吹き飛んだ。


 俺はその瞬間に膝をついてしまった。

 思いの外、魔力を使いすぎた。格上相手に力を制御して戦うことが今の俺には傲慢すぎたってことだ。倒れる訳にはいかないから規制をつけたわけだけど意味が無かったな。


 即座にポーションを飲み込んで回復を待った。普通の規定値を回復する魔力回復ポーションでは効果が薄い。だから飲んだのは徐々に一定量ずつ回復していくポーションだったのだが……時間がかかりすぎる。二人の援護には回れそうもないな……。


 壁に凭れながら殲滅していく様子を眺めている。そんな中だった。倒れていたライがゆっくりと体を起こし始める。何かがやばい、そう教えてくれているのに体が上手く動かない。


「……ギルドは全滅……俺も負けかけ、か」

「ええ、その通りです。投降してはいかがでしょうか?」


 満身創痍を表したままのライがのそりと立ちながら血だらけの体をユラユラとさせる。気味が悪いと言うしかない。ライがではなくライの放つ雰囲気がそれを物語る。


「ああ……俺も……諦められないんでな!」

「やめなさ」


 モルガンの声が途切れる。

 クルリと半回転で俺の横に来たかと思うとモルガンらしくもなく舌打ちをした。ああ、分かっている。ライが飲んだ瓶の中身がどれだけヤバいかってことに。


「……すいません、戦えますか?」

「謝らなくていいよ。まだ戦いたいって思っていたんだ」


 強がりを口にしてモルガンを慰める。

 モルガンは悪くない。ライの良心に語りかけて諦めるように促すのはモルガンなりの優しさだったんだ。ライのように自分だけがの精神ではないということが分かっただけでも良かった。


「雑魚ばっかりで暇だったんだ」

「……報酬は弾みますよ」

「やったぜ、マーチと遊べるだけの金をくれよな」

「これだから彼女持ちは」

「彼女じゃねぇよ!」


 こんな時でも軽口を叩いて笑ってしまう。

 やっぱりロイドは面白い奴だ。旅に出る時は連れて行きたいものだな。そのためにも俺は負けるわけにはいかない。


 ライが飲んだのは魔力爆発薬。

 人を人から変化させてしまう、いわば麻薬だ。ライは自分から人であることを捨てたんだ。もうアイツはただの魔物でしかない。


「……殺す気で行きます。手加減はしない方がいいと思いますよ」

「ああ、俺もそう思うよ」

「少なくとも二人がいるんだ。俺は負けるとは思わない」


 モルガンに手を引かれて体を起こす。

 目が充血してヨダレを垂らす、上下に非対称に動く目で俺達を捉えたライが距離を詰めた。それをロイドに流してもらう。ロイドでさえも受けるのではなく流すのが精一杯みたいだ。


 俺は再度、剣に雷を込めた。


____________________

以下、作者より


ライが人ならざるものになる薬、魔力爆発薬ですが詳しい説明は後に書く予定です。またあまり引き伸ばしにするつもりもないので次回でライとの戦いは終える予定です。勝てるかどうかは不明ですが(笑)。


以上、作者からでした。

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