第7話

 バレた? いや、そんなはずはない。ヨーコはずっと頭を抱えて撃たれまいとしていただけだ。確かに、俺はポールを殺した。だが、こんな小娘一人の証言に、誰が付き合うと言うんだ?


 俺は顔の皮一枚で動揺を隠しつつ、ヨーコに問うた。


「何を言っている、ヨーコ伍長? そんな馬鹿な話が――」

「ありますよ」


 そう断言され、俺は鉛の塊を飲み込んだような錯覚に陥った。


「順を追ってお話します。まず、狙撃手であるあなたが、護衛もなしに、私より先に現場入りしたのが腑に落ちませんでした」


 確かに。狙撃銃②の設置のため、俺はヨーコの援護を断り、先に現場に潜入していた。


「次に、戦闘が終わってからもあなたは警戒態勢を解こうとはせず、ずっと狙撃銃の引き金に指をかけていました。まるでまだ作戦が終わっていないかのような、緊張感をもって」

「だ、だからと言って、俺がポールを撃ったという証拠は――」

「では今左手に握っているケーブルは何です?」


 はっとした。狙撃銃②から回収するために引っ張り込んでいたケーブルのことだ。


「こ、これは――」


 今やヨーコは、戦闘中に怯える兎ではない。天誅を下す戦の女神だ。

 ヨーコは立ち上がり、腰元から拳銃を抜いて、ぴったりと俺の眉間に照準を合わせた。


 どうしてこんなことになった? 一体何がいけなかった? 俺の復讐は、こんな形で終わるはずはない。そんな、馬鹿な。


 それから視界が暗転するまでの僅かな間、俺は思い返していた。ヨーコにパックの栄養ドリンクを渡した時のことを。

 俺は衛生兵時代の癖で、医療用の劇薬も装備品の中に含めていた。それをヨーコに渡せばよかったのだ。どうせ彼女は何の役にも立たなかったし、『間違って劇薬を飲ませてしまった』と言えば、軍法会議で死刑にはならなかったかもしれない。

 まだ希望はあったのだ。そう――。


「振り返ればあの時殺れたかも、な」


 そうして、俺の意識は永遠に闇の中へと落ちていった。


 THE END

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振り返ればあの時ヤれたかも 岩井喬 @i1g37310

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