第6話
ポールを殺したのは、間違いなく俺だ。だが、撃ったのは俺ではない。
このコンテナの上に陣取るにあたり、俺は、自分から離れた場所にもう一つのスナイパー・ライフルを設置していたのだ。
仮に、今俺が手にしている狙撃銃を①、もう一つを②としよう。
②は、当然、今俺が手にしているのとは違う。遠隔操作型の狙撃銃である。作戦終了に合わせて、俺はスコープを①のものから②に切り替え、火器管制システムも、②に調整し直した。そして、①からではなく②から、ポールの眉間目がけて発砲したのだ。
当然、現場は混乱する。狙撃手の姿のないところから銃弾――②から発せられた凶弾が飛んできたのだから。
しかし、我ながら用意周到にも、俺は自分のアリバイを作っていた。ヨーコ伍長の存在だ。彼女は作戦中には全く役には立たなかった。が、ずっと俺のそばにいた以上、俺の無罪を証言してくれるに違いない。俺はずっとこの場にいて、援護射撃任務から片時も離脱しなかった、と。後は、遠隔操作につかったケーブルを②から引っ張り抜き、回収するだけだ。
狙撃銃②に関しては、念には念を入れて別人の指紋を付着させてある。いかに詳細な監察が為されたとしても、ポール射殺の疑いは俺にはかかるまい。
だが、まだこの茶番は終わっていない。突入してきた皆が、警戒しながら進んできているのだ。無事彼らに無事合流・帰還し、『ポール射殺の犯人は逃亡した』という事実が確定されるまで、俺の作戦は終わらない。
《おいジョン、無事か?》
無線に入ってきたのは、突入部隊副隊長・ジョージの声だ。
「ああ、大丈夫だ。それよりヨーコ伍長が情緒不安定になっている。帰還したら、すぐにメンタルドクターに診てもらえるよう手配してくれ」
《了解。訊きたいことはたくさんあるが……まずは合流しろ。先ほどの狙撃手がうろついている可能性もある。伍長の世話もあって大変だろうが――》
「心配するな。ポイントを移動して01に合流するから、撃たないでくれよ」
《分かった》
ジョージの復唱を聞き終え、
「おい、作戦終了だ。突入班に合流するぞ」
とヨーコに呼びかける。しかし、彼女は自前のディスプレイを見つめたまま動かない。
「ヨーコ伍長、大丈夫か?」
呼びかけても、返事一つ寄越さない。それほどディスプレイを眺めるのが好きなのか。
俺はため息をつき、狙撃銃②に接続していたケーブルを勢いよく引っ張り込みながら、
「先に戻るぞ。置いて行かれたくなかったら――」
と言いかけた、まさにその時だった。
「突入隊長のポール軍曹を殺害したのはあなたですね、ジョン軍曹」
「え?」
その一言に、俺は自分の身体が凍り付いてしまうような錯覚に陥った。
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