第5話

 その頃には、既に多くの特殊部隊員がこちら側に突入してきていた。ガスマスクを装備し、市街地迷彩柄、すなわち灰褐色の防弾ベストを着ている。

 無線のチャンネルを合わせると、現在の状況が非常によく分かった。


《こちら01、死傷者なし》

《02、軽傷者二名。04に、本部への移送を要請》

《コマンド、了解》


 要は、今回の作戦は楽勝だったということか。敵の排除が完了した以上、突入部隊の長たるポールは、間違いなくこちらに入ってくる。

 もうすぐ。もうすぐだ。


《こちら01、ポール。ジョン、無事か?》


 思わぬ気配りに、俺は一瞬ドキリとした。ポールの声に悪意は感じられない。しかし、いやだからこそ、優等生たるコイツとの決着をつけなければ。正義面をして俺のメンツを潰した男なのだから。


「ああ。俺は無事だ」

《了解。やはり負傷者は二名で済みそうだな。担架、早くしないか!》


 振り返って部下に指示を出しているらしいポール。お前こそ、早く入ってこい。死者一名にしてやるから。


 それにしても――。

 ポールへの復讐を果たすだけなら、こんな労を講ぜずともよかったはずだ。部隊本部で射殺するなり、刺殺するなり、いろいろとやりようはあった。


「振り返ればあの時殺れたかも、な」


 だが、そんなポールを殺したところで、自分が罪に囚われるのは面白くない。そうなると、ポールは作戦中に殉職、という形を取るのがベターな選択だろう。あんな奴を殺したくらいで、俺が軍法会議にかけられるなど、死んでもご免だ。


 やがて、排煙機が稼働したのか、黒煙が急速に吸い込まれていった。ガスマスク越しにとはいえ、誰が誰かは見れば分かる。そしてついに、


「ふっ……」


 俺は浅く息をついた。ポールの姿が、見えた。俺は次弾を装填し、奴の額に照準を合わせる。

 今更ながら、俺は自分がひどく落ち着いていることに驚いた。さっきはあれほど『殺してやる!』と息巻いていたのに。意外と俺は、狙撃手に向いていたのかもしれない。皮肉なものだ。


「じゃあな、兄弟」


 そう呟いてから、俺はしっかりと引き金を引いた。


 ズドン、という発砲音と同時に、まるで割れたスイカのようにポールの頭部が消し飛んだ。

 残る隊員たちは、一斉にうつ伏せになった。


「た、隊長!」

「まだだ! まだ敵が潜んでいるぞ!」

「あそこだ! 硝煙が上がっている! 総員、狙え! 順次銃撃を加えろ!」


 その言葉に続き、弾丸が集中した。俺、にではなく、俺から十メートルほど離れたコンテナに。

 

 特殊部隊の連中は、全員が人外と言ってもいいスキルを有している。狙撃をしたところで、すぐに射撃位置を割り出され、俺はハチの巣にされていただろう。

 それを防ぐために、俺は一人、一計を案じていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る