第4話

 胃液が逆流しそうになる。それはミニガン――回転式大口径機銃の爆音に揺さぶられたから、ではない。壁の向こうで取引のブツであるところの爆薬が炸裂したからでもない。

 ポールの手腕が見事だったからだ。


 危険な重火器が取り扱われる場所において、ヘリからの援護は実に心強い。しかしそれを、決して大規模とは言えない今回の作戦で運用するとは。大胆かつ綿密な計算、すなわち隊員たちの士気や現在の体調、負傷者の数などを考慮して、ヘリに援護させるという手に出たのだ。


「畜生……」


 我知らず、俺は呟いていた。なんだ、見事な作戦展開をするじゃないか、ポール。お前の部下として、ずっと突入班でいられたらこんな苦しみを味わわずに済んだのに。

 ふん、まあいい。お前とも今日でおさらばだ。俺が綺麗に、貴様の眉間をぶち抜いてやる。


 思索にふけっていたのは、恐らく一、二秒の間だったと思う。

 俺は目を、自分の手にした狙撃銃のスコープに戻した。すると、狙いをつけておいた扉がバゴン、と向こうから勢いよく蹴り開けられた。


「ぎゃああああああ!」

「助けてくれえええ!」


 真っ先に飛び出してきたのは、そんな悲鳴と濛々たる黒煙だった。次に、向こうから吐き出されるようにして密売人たちがなだれ込んでくる。

 ミニガンは、ポールの計算通りに重火器の暴発を促したのだろう。密売人たちは炎に巻かれ、全身を焼かれながら、覚束ない足取りでこのコンテナ倉庫に踏み込んでくる。


 ――じゃあな。ピシュン。

 ――今すぐ楽にしてやる。ピシュン。


 俺は呼吸をするかのように引き金を引いた。二発、三発と、最小限度の発砲音と弾数が銃口から射出される。


《現在、狙撃手が敵を排除中。再度突入まで、総員その場で待機!》


 途中でポールの声が入ったのは耳障りだ。が、今は気にならない。もちろん、突入時ほどのスリルはない。それでも、悪党共の命が自分の掌で踊っているという感覚は、俺を恍惚とさせるものを宿していた。


 しかし、それも束の間。

 自分たちが狙撃を受けていることを察した密売人共が、こそこそとコンテナの陰に隠れ始めた。


「チッ」


 俺はマガジンを交換し、コンテナの隅に狙いをつける。やがて、特殊部隊の連中がこちら側へと乗り込んできた。俺の銃口から逃れようとしていた密売人共。だが彼らは、今度は突入班を前にその身を晒すことになったのだ。


 今度は警告も何もあったものではない。瞬く間に十人近くが、銃弾によってコンテナに磔にされていく。

 そこから逃れようとこちらに飛び込んできた連中は俺の獲物だ。


 ピシュン、ピシュン、ピシュン――。


 しばらくすると、銃声がだんだんと収まりを見せてきた。

 そろそろだな。俺はスコープの向こうに、ポールの姿を探した。


「さあ、ツラ出してみろ」


 言いながら、唇を舌で湿らせた。

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