第4話 ここは何処だろう?

 泣いて泣いて、疲れた梨生はいつの間にか気を失ってしまったようだ。

 そばにいる小さな白い仔猫はみゃーみゃーと鳴いて、主の居場所を告げていた。





「なんでこんな所に子供が?」



 梨生を見つけた男は首をひねりながら言った。

 そして、梨生をリュックごと肩に抱えると、白猫に気づいた。


「ずっと鳴いていたのはお前か?」


 白猫は男の足をズボンの上からカリカリと引っ掻いた。

 梨生を抱えていない手で白猫を自分のもう一方の肩に乗せ、男は歩き始めた。




 男は草をかき分け道に置いていた馬車に戻った。

 馬車と言っても馬ではなく、足が八本もある馬のようなものである。

 その場で立って待っていた二人の男たちがいた。彼の仲間らしい。



 長い茶の髪の毛の男が言った。


「何だぁ? 猫かと思ったら子供かよ」


 肩から子供を馬車にそっと下しながら男は言った。


「猫もいたぞ? ほれ」


 すると止まっていた肩から飛び降りた白猫は、子供のそばに飛んでいきふぅっとうなった。


「ははは、お前猫にも嫌われてやんな」


 金茶の短髪の男は子供の頬をつつきながら長い髪の男に言った。

 白猫はつついていた手を引っ掻くように爪を出してきた。


「ははっ、お前だってっ」


 長髪男はそう言い返して、自分も猫の方に手を出し、引っ掻かれそうになっていた。

 引っ掻かれそうになった手を引っ込めながら、長髪男は子供を指さし連れて来た男に聞いた。


「で、どうすんだ? これ」


 連れて来た男はそうさなぁとアゴを書きながら答えた。



 彼らはこの近くに拠点を持つチームの仲間である。

 子供を連れて来た男はエディン。

 長い茶の男はブラウン。

 金茶の短髪男はゴールという。



 珍しく休暇で故郷に帰り、ちょうど戻ってきたところであった。

 草原をのんびりと馬を走らせていたら、突然馬が止まって動かなくなったのである。


 耳を澄ませてみると、猫のような声が聞こえて来たので猫好きのエディンが探しに行ったのである。




「とりあえず村まで連れて行くよ。迷子だったら可哀そうだろ?」


 エディンがそういうと、ブラウンは首をひねりながら言った。


「こいつ、変な格好だぞ? 何か面倒にならないか?」


 そうはいってもどう見ても小さな子である。こんな何もない草原に放り出す訳にもいかず、村まで連れ帰ることにした。


 子供が起きた時パニックにならないよう(知らない人がいてびっくりしないよう)に三人はのんびり村まで歩くことにした。

 どちらでもびっくりすると思うけどとは三人とも思ったが、その時に暴れたり泣かれたりすると困るなぁと誰も一緒には乗らなかったのだ。

 村はすぐそこだったというのも、ある。

 馬車の中は三人の荷物と、梨生と子猫だけ。

 ぱっかぱっかと馬車はのんびりした音をさせながらアル村に戻っていった。




 馬車が村に着くと、物見の塔に声を掛けてそのまま村へ入って行った。




 自分たちの宿舎に帰ると、荷物を下ろすために馬車に入って……




「きゃーーーーーっ」

「みぃぃぃぃぃ」


 一人と一匹は馬車に入ってきた男に驚いて声を上げてしまった。




 実は馬車が止まる少し前に、梨生と子猫は目が覚めていた。

 ごとごとと動く木の箱にいることに気づいた梨生は、やはり傍で目覚めた子猫を抱きしめた。


 ここは何処だろう? 私はこの動く箱に乗せられてどれくらいたったのだろう。

 頭はそんなふうに動いてはいたのだけれども、男の姿を見たとたん悲鳴を上げてしまった。



 男はすぐに飛び出していった。

 そして外から声を掛けられた。



「おい、大丈夫か? ここはアル村というんだが、お前はどうしてあんなところにいたんだ」

「お、オレはブラウンだ。お前の名前は?」

「その白猫はお前の飼い猫か? 可愛いな。触らせてくれよ」



 外から三通りの声が聞こえた。

 声も三つなら問い合わせも三つだった。

 梨生はとりあえず、言葉が分かる事に安堵した。

 チラッと見えた髪の毛が、なんだか外人みたいだったからだ。


 英語じゃなくて良かったぁ。苦手なんだもん。お母さんは勉強しなさいっていうけど。




「り、りう…です。猫はマシュです。ここは何処ですか?」


 みっつの質問に三つとも答えようと思ったが、一つはどうしても答えられなかった。

 何故なら梨生本人がどうしてあんなところにいたのか分からなかったからである。


「私がいたのは清野というところのお社でした。気がついたら知らない森で歩いてたら、あの草むらにいました」


 素直に自分が分かる事だけをこたえた。嘘を言ったところでどうしようも無いからである。

 そして梨生は馬車の中に猫とおり、三人はいまだ外にいるのだ。

 見えない不安と、知らない不安は梨生の心細さを増した。



「なんだ、お前落ち人か?」


 知らない言葉である。


「落ち人ってなんですか?」


 男の一人が説明しようと声を上げかけたが、その前に梨生が言った。


「あの、外に出ていいですか? もう、叫ばないので出たいです」


 三人の男は子供なのにやたら丁寧な言葉遣いをする子供に、ああいいとこの子供なんだなと感じていた。


「出て来れるか? 幌を上げるぞ」


 エディンはそう声をかけながら、馬車のカーテンみたいなものを上にあげた。




 幌をあげた馬車の中に眩しい光がはいってくる。

 梨生は目を細めながら出口まで這い出すと、背の高い男に抱えられて、そして地面に下された。


 梨生が周りを見回すと、小さな家がぽつぽつとたたっているのが見えた。

 地面は土で、ところどころ草もある。

 梨生はどうやら自分の住んでいた所と変わりはあまりないと思った。




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