第10章 傷付いた笑顔と告白と

第21話 傷付いた笑顔と告白と

  翌日、放課後が近付くにつれ、ゆきちゃんが落ち着かない様子でそわそわしているのがわかった。

 そんなゆきちゃんを見るたびに、私の心もざわついて落ち着かない……。


「落ち着きなって。告白、するんでしょ?」

「う、うん……。でも、初めてだし……どうしよう、やっぱりやめておけばよかったかな……」

「ええー……今更言う? どうするの?」

「どうしよう……二人とも、下駄箱まで着いてきてくれない? 私が逃げないように見張っててー!」

「だって、美優」

「う、うん……」


 正直、ゆきちゃんが貴臣君と二人でいるところなんて見たくなかった。でも……それと同じぐらい、二人がどういう話をするのかが、気になっていたのも本当で……。


「ホント!? ありがとうー!!」


 ホッとした顔で私たちの腕を掴むゆきちゃんの姿に、胸が小さく痛んだ。

 緊張した面持ちのゆきちゃんと一緒に廊下を歩く。

 やっぱりいけない、なんていうメッセージが来ないかと期待したりもしたけれど……貴臣君とのチャット画面は昨日のメッセージで止まっていた。


「はぁ……」


 一階まで降りてきた私たちは、 廊下の角から下駄箱のあたりを覗いてみた。


「も、もう来てるかな……?」

「どうだろ?」


 ここからだと上手く見えなくて、貴臣君が来ているかどうかわからない――そう思っていた私たちに誰かが声をかけた。


「何やってるの? そんなところで」

「きゃっ……!」

「さ、桜井君……」

「ビックリした……」

「呼び出しといてビックリしたってなんだよ」


 貴臣君は可笑しそうに笑う。

 その笑顔に、心臓がドクンと高鳴るのを感じる。でも、今日貴臣君がここに来たのは私に会うためじゃない……。そう思った私に、貴臣君は意外な言葉をかけた。


「今日は友達も一緒なんだね」

「え……」


 ゆきちゃんの姿なんて目に入っていないかのように、貴臣君は私を見てそう言った。


「それで、わざわざ呼び出してどうしたの? 学校で呼びだすなんて今まで――」

「っ……違うの!」

「え……?」


 貴臣君の言葉を遮ると、私は必死に違うの、そうじゃないの……と言った。

 そんな私を、貴臣君は怪訝そうに見つめる。

 私は――後ろを振り返ることも顔を上げることも出来ず、その場で俯いていた。

 ゆきちゃんは、いったいどんな顔をしているんだろう……。


「えっと……?」


 どうしたらいいか分からずにいると、私と貴臣君の間に、誰かが割って入ったのがわかった。

 思わず顔を上げると、そこには――ゆきちゃんの姿があった。


「ビックリさせてごめんね。呼びだしたのは美優じゃないの」

「え……? どういうこと?」

「私がね、桜井君に用があって美優に頼んだの」

「……君が?」


 驚いた表情を浮かべた貴臣君は、ゆきちゃんと私の姿を交互に見ると、冷たい視線を私に向けた。


「そうなの?」

「え、えっと……」

「それで俺を呼んだの? 頼まれて?」

「う、うん……」


 貴臣君は今まで聞いたことのないようなトーンで、私に話しかけた。

 無表情で私を見つめる目からも、貴臣君が怒っているのが分かる。

 どうしよう、私……。


「――あ、もしかして美優ってば私が用があるって書き忘れたんじゃないの?」

「え?」

「だから、桜井君誤解しちゃったんだよ」

「あ……そういえば、書くの忘れた気がする」


 それどころじゃなくて……そんなことにまで頭が回っていなかった……。

 でもじゃあ……貴臣君は、ゆきちゃんに呼び出されたと思ったからここに来たわけじゃなかったんだ……。

 私に会いに来てくれたんだ……。

 それなのに――。


「ごめんなさい……」

「――別に」


 謝った私にそういうと……貴臣君は私の方へと近付いてくる。

 そして、二人には聞こえないほど小さな声で言った。


「残酷なこと、するね」

「っ……」


 その言葉は、私の胸に突き刺さる。

 そして――。


「えっと……松井さん、だったっけ?」

「覚えててくれたんだ。嬉しい……」


 貴臣君に名前を呼ばれたゆきちゃんは、嬉しそうにはにかんだ。

 そんなゆきちゃんに貴臣君は別に……というと、中庭の方を指差した。


「ここじゃなんだから、場所かえようか」

「あ……じゃ、じゃあ……」


 ゆきちゃんに声をかけると、私たちを残してどこかに行ってしまう。


「さよなら、新庄さん」


 去り際にそう言った貴臣君は、もう私の顔を見ることはなかった。


「待って……!」


 その背中を追いかけるようにしてゆきちゃんは私たちのそばをすり抜けていく。


「二人とも、ありがとう……!」


 そんな二人の姿を見送ることしか、私には出来なかった……。



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