第51話  君の瞳に乾杯

「私たちの役回りか。それよりもむしろ、私たちの立場を説明した方がいいかもしれないね」


 俺はミートパイにかぶりつきながら、話の続きを待った。


「基本的に私たちは、人間の世界に不干渉の立場なんだ」


「私たち、っていうのは、『イモータル』の七人ってことですか?」


「そう、私たちイモータルは、余りにも影響力が大き過ぎる。だから歴史に対して不干渉の誓約をたてたのだ。それでも、私たちの存在は強大で、完全に世界との係わりを絶つことは難しかった。それぞれどうしても漏れ出てしまうのだよ、影響力が。しかし、今回のザラツシュトラの歴史への干渉は、看過できない程に大きい。なにしろ、世界的重工業コングロマリットを裏で操り、大国のドイツも引き込んで、いろいろ画策しているようなのだ。事は既に重大な誓約違反の様相を呈している」


「気を悪くしないで欲しいんだが、マグナス卿だって英国政府に雇われているんだろ?」


 卿は軽く赤ワインを飲んだ。


「私はただお金を貰って適当に遊んでいるだけさ。英国に損得ないくらいにね」


「それでも、英国で伯爵の身分なんでしょ?」


「ふん、私を誰だと思っている? あの島に国が興る遥か以前から、私はあの地を歩いていたんだよ?」


 この人、いったいいつから生きてるんだろう。訊けば答えてくれると思うが、今は知らなくていいかな。なんかもうお腹いっぱいだぜ。


「それじゃ、マグナス卿はそのザラツシュトラの陰謀を追って皇国に来たのか?」


「いや、それは全くの偶然さ。ここには刀と器が欲しくて来たんだ」


 あ、そう。確かに英国政府の為に来た訳じゃなさそうだ。飽くまで個人的な目的なのね。


「しかしそのお陰であやつの陰謀の端緒に遭遇出来た。クルップを使って、良からぬ実験をしているようだ。あの異能を移植する技術は、かつての失われた文明の業だ。あんなものをこの時代に復活させて流出させるとは、愚者の所業だ」


 え、今、なんていいました? なんかサラッととんでもないこと仰ってたような・・・。


「まぁ、それに良い出会いもあった。その中の一人が君だ、トキジク君」


 そういって卿は微笑み、ワイングラスを掲げた。

 俺もつられてエールのジョッキを上げ、乾杯した。

 やっぱり俺、釣られてんのかな。

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