第31話  不老不死探偵の助手 其の拾弐

「姉さんを奪還するって、どうやって」

「ああ、それだよね」


 あの髭オヤジだけなら、おれたち二人でなんとかなると思う。だけど、あの二人の後ろに、侠客風情の袴姿の男と、外套を着た長身の男が控えていた。多分用心棒だ。まともにぶつかれば負ける。

 ま、あくまでまともにぶつかればの話だけどね。


「いったろ? おれは人目を忍ぶのが得意なんだって」

「いや、そうだとしても・・・」

 宇良はかなり不安そうな顔をした。

 さっきは頭に血が昇って一人で飛び出していこうとしたくせにー。


「まえら姉弟と同じ、おれも異能の力を持ってるんだよ」

「本当か? いったいどんな」

「説明は後。今はとりあえずおれの手を握って声を出すな。あと出来るだけ音を立てるな。気配は消す。そうすればあいつらにおれたちの姿は見えなくなる」

「なんだよそれ、透明にでもなれるのか? すごいな」


 実をいえば、おれの能力は決して透明になれるものじゃない。

 本質は『拒絶』だ。

 千年も昔は結界師の力として使われていたらしい。だけど時代が変われば、ただ畏れの対象だ。忌み嫌われる。


 今回はあいつらの視線を『拒絶』することに使う。そうすればおれたちの姿は見られない。でも万能ではないから、喋ったり注意を引けばバレてしまう。


「おれがコイツを投げてあいつらの注意を引く。その間に姉―ちゃんに近づいて手を握って、そのまま奥の出口からおさらばって訳さ」

 うん、我ながら完璧な作戦だ。可憐なる天才探偵春日の誕生だぜ。

「いくぞ」


 おれは宇良に囁くと、硬貨を髭オヤジたちから離れたところに投げた。

 ああ、よく考えたらお金もったいない。いきなり作戦に陰りが・・・。

 なんてくよくよしてもしょうがない。集中、集中!

 投げた硬貨がチャリンチャリンと大きな音を響かせた。

 皆が一斉に音がした方を向く。


「・・・なんだ⁉ 今のは」


 髭オヤジが緊張したような声でいった。

 袴の用心棒が黙って実験室の奥へ歩いていく。

 他の二人は注意深くその様子を見守っている。


 今だ。


  おれは宇良と手を繋いだまま、床にしゃがみ込んでいる美良にそっと近づき、その肩に触れた。

 驚いて振り返る美良に、おれと宇良は必死で口の前に人差し指を立て、声を出さないようにと訴えた。

 目を丸くして咄嗟に両手で口を押えた美良だったが、宇良の姿を認め、とりあえず落ち着きを取り戻したようだった。


 おれは宇良と手を繋いでいる様子を見せ、素早く美良の手を取り、出口の方へ歩くように促した。

 美良は戸惑いながらも立ち上がり、従ってくれた。

 おれたちは慎重に、だけど出来るだけ急いで出口へ向かった。


 大丈夫、袴男はまだ実験室の奥の辺りを確かめている。髭オヤジと外套男もそちらを見ている・・・はずだった。

「なっ、美良がいない!」

 髭オヤジがいち早く気が付いた。

 外套男も慌てて辺りを見回す。

 今はおれの異能でかろうじて見えなくなっている。

 だけど、強い意志を持って探られれば、見えてしまう可能性は高くなる!

 

 まだ見つかっていない間に、このまま脱出だ!

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