第32話  不老不死探偵の助手 其の拾参

 実験室の三人が騒ぎ始めた。美良がいないことに気付かれた。

 だけど、今ならギリギリ脱出出来るはず!

 おれは宇良と美良を引き連れ、焦りを抑えながらドアの前に急いだ。


 よし、まだ『拒絶』の異能であいつ等の視線を逸らせている。


 おれたちに向けられる視線を拒絶すれば、見られることはない。それでも、注意して、意識して探されれば、見つかってしまうんだ。

 さぁ、大きな両開きのドアに着いた。慎重に開けて、外に出たら全力で走っ・・・。

 ノブに手をかけようとしたその時、ドアが勝手に開いた。

 外から押し開かれたんだ。

 そして一人の男と鉢合わせになった。


 黒いシルクハットに燕尾服、そして異様な笑い顔の真っ白な西洋のお面姿。

 どこかの仮面舞踏会の帰りですか?


「あぁっ!」


 驚いたのか知っている人間なのか、その男の姿を目の当たりにして、美良は短い悲鳴を上げた。

 そして一斉に背後にいた男たちの視線が俺たちに向けられた。

 完全に見つかった・・・かな?


「なんと、驚いたな。さっきのコソ泥と一緒に、宇良まで居るとは」

 いつの間にそんなところに、と髭オヤジが近づいてきた。

「三人揃って、どこへお出かけだ?」

 厭味ったらしく笑い、杖を掌に打ち付けている。

 こうなったらもう開き直るしかない。


「あんたら、ここで人体実験してるんだって? 随分とえげつないっすねー」

 おれたちは三人一塊になった。

「しかもこんな可愛い女の子のやらせてるときたもんだ」

 左側には髭オヤジと袴男と外套男、右側の出口には仮面男、挟まれて逃げ場はない。

「ふん、宇良にでも聞いたか? それがどうした」


「そういや、最近市井で流行ってる、河童の噂は知ってるっすか?」

 おれの言葉で、髭オヤジの杖をポンポン打ち付ける音が止んだ。

「か、河童? 知らんな、そんなもの」

「おれ、こう見えても東京随一の探偵の助手してるんすよ。だからいろいろ情報が入ってくる訳でぇ。先日四谷で噂の河童が退治されたっていうじゃないですか。しかしそれは河童とは似ても似つかない、異形のモノだったそうっすね。まるで何かのタガが外れたような・・・」

「あれは我々の失敗ではない! すべてその美良の力不足とやる気の無さで、あんな出来損ないの化物が生まれたんだ!」

「へー、自分たちで創っておいて、それを失敗だの出来損ないだの化物呼ばわりか。これじゃなにもかもが浮かばれんないっすね」

「なにも知らないガキが! すべては我が桃雛家の再興と御国のため。強力な異能の兵士を創り、この国を護り支えるのだ! 所詮子供なんかにこの大義はわからぬか」

「そんなもん、知りたくもねーや」

「ならば知らぬままに送ってやろう」

 髭オヤジは袴男と外套男に合図を送った。

「私の親切に、あの世で感謝するんだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る