昔々――これは、この世界に魔法が存在していたって言われていた頃のお話。

 とっても強い力を持った、一人の魔法使いがいたんだ。

 彼は力が強すぎる故に誰からも恐れられ、同じ魔法使い達からも嫌煙されていたから、いつも一人だった。

 一人ぼっちで、森の奥深くにひっそりと隠れるように暮らしていたんだ。

 けれどそんな彼は、ある時一人の少女に出会った。彼女はね、森の中で道に迷っていたんだ。

 少女を探してぞろぞろと人がやって来ては困るから、魔法使いは自分の姿を鳥に変えて、さりげなく彼女を出口まで導いてあげた。

 無事に森から出た少女は、飛んでいく鳥に向かって大きく手を振りながら言ったんだ。


“ありがとう。またね!”


 それからしばらくして、魔法使いはまたしても森の奥で迷子になっている少女を見つけた。

 まるで何かを探しているようにキョロキョロと辺りを見回しながら、少女はどんどん奥まで入り込んでくる。

 だから魔法使いは、いつ自分の住処が見つかるかと気が気じゃなくてね。鳥になって少女の元に飛んで行くと、森から出るように促したんだ。

 鳥が飛んでくると、少女は素直にその誘導に従って森から出て行く。そして、別れ際に決まって言うんだ。


“ありがとう。またね”


 それが幾度か続いたある日、少女はね、別れ際にその言葉を口にしなかった。

 改まったように鳥に向き直って、その目をジッと見つめて言うんだ。


“いつになったら、本当の姿を見せてくれるの?”


 少女はね、気がついていたんだ。そもそも彼女は、初めて森に入った時からずっと、一人ぼっちの魔法使いを探していたから。

 別に、魔法で何かをして欲しかったわけじゃないんだ。少女はただ、魔法使いが呆気に取られるくらいに優しかっただけ。

 だから探していた理由も単純で、単純すぎて、魔法使いは戸惑った。

 好意の裏に下心を隠した人間は嫌と言う程見てきたから、一見すれば簡単に見抜けるけど、少女にはそれがなかったんだ。だから、尚更戸惑った。

 それからも少女は、魔法使いを探して何度も森を訪れたんだ。その度に魔法使いは鳥の姿で飛んでいって、出口へと導く。

 少女はもう、“いつになったら――”とは聞かなかった。それまで通りに笑って、“ありがとう。またね”って森を出て行く。

 そんな日々をね、いつしか魔法使いは楽しみにするようになっていったんだ。

 一人ぼっちの寂しさを、少女の優しさが、ひと時でも慰めてくれる。

 何をするでもない。ただ、まるで迎えに来るように森の奥にやって来た少女を、鳥の姿で出口まで導いてやるだけ。

 当然会話もないけど、時折少女が一方的に話し出すから、それを黙って聞いていたんだ。

 そんな日々が、魔法使いにとっては安らぎだった。

 でもね、そんな穏やかな日々にも、やがて終わりの足音が近づいてくる。

 なぜってそれは――――

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