第6話

裁判所はネットワークを使ってソファーにくつろぐ人々に情報を流す機材を携えた人間が、これから起こる裁判の結果を待ち構えていた。僕はその光景を後ろ目にゆっくりと降りていく。そして、それと同時に裁判所の掲示板が裁判の結果を昼間の太陽より明るく照らし出し、girthy(有罪)と大きく映し出し、それと同時にフラッシュとマイクの嵐が僕を襲った。僕は顔を隠しながら人波をわり降りていった。

 自分の目の前には一匹の猫と二人の女性が年代物のハイブリット車で待っていた。

「お疲れ、貴方の持っていたメモリーのおかげで、奴らの悪事が白日の下にさらけ出すことができたわ。」

 白衣を着た女性が僕を労ってくれた。その女性は僕を助けてくれた科学者であった。彼女は労いの笑顔で僕を迎えてくれた。

「礼を言うなら、隣の人物に言ったらどうですか。」

 僕は隣にいる人物に顎で示した。それはマリュートであった。顔には海賊傷のような傷跡が生々しく残っていて。それを隠すように帽子を深々と被って表情がうかがえない。

 あの時、僕と彼女が何があったかは詳しいことは省く。ただ、凄まじい銃撃戦になったことは確かである。僕らが実質二対一であったのにも拘らず彼女はすさまじい身体能力を駆使して、僕達と渡り合い、激しく撃ち合った。それは死闘というよりも舞台芸術のような感覚であった。幾多の放たれる銃弾の位置を、互いに筋肉と手の動きから弾丸の発射位置と方向を予測し、紙一重にかわしていった。時折耳元やこめかみに弾丸の風切り音が聞こえてきたり、肩や右足に、玉ねぎの皮が剥けるような軽い痛みを感じながらも死のワルツを踊り続けていた。

 事態が変わったのは、踊り始めて数分が立った時だった。突然僕が何かに足をつまずき前のめりにダイブしたとき、そこに狙いすましたかのように弾丸が僕の心臓に位置する中心からやや右寄りに命中しかかった。トルティージャは僕を守るために防護壁を展開した。弾丸は僕の胸に衝撃と骨の一部にヒビを入れただけで済んだが、トルティージャは瀕死の重傷を負う羽目になった。僕は思わず、彼に近寄った、そのすきにマリュートは僕に銃口を向けようと近づくが、僕は持っていたナイフを喉元に突き付ける、彼女は降伏するそぶりを見せて、逆に反撃しようとしたが、トルティージャが隙をついて爆弾を冷却したことに気が付き、攻撃をやめた。それは自分の敗北を認めるということでもあった。

 ふと僕の視線に何かが映った。それは幹部の一人が虫の息ながら銃口を向ける光景だった。トルティージャはそのことに気が付き、狙われたマリュートをかばった。マリュートはすぐに幹部にとどめを刺し、すぐに彼にの安否を気遣う。パニックになった僕らはメモリーを爆弾ごと抱え、二人して彼を助けるために科学者の元に戻った。

 奇跡的にトルティージャは一命をとりとめることができた。その副産物としてメモリーと僕の証言が証拠となり、人身売買組織の有罪と壊滅につながったのである。


「でもどうして、あんな事したの。」

 僕はトルティージャにあの時の疑問をぶつけてみた。

「昔、もう一匹と組んでいた相棒の事を思い出したんだ。もう一匹は気が付かなかったけど、その相棒は彼なりに僕らへの恩返ししているみたいだった。」

 僕はただそうだったのかとただ一言つぶやいた。恩返しにはいろいろなものがあるのだと感心した位であった。

「トルティージャ、君たちはどうするの?」

「僕らはまた新しい相棒と組んで、事件の捜査に向かう。これの繰り返しさ。」

「あなたのような被害者をまた探すことになるわ。」

 今回のようなことをまたするのか、二人は、いや一人と一匹は苦労が絶えないだろうな。その時はそう感じていた。

「イーター、君はこれからどうする、もう自由の身になったことだから何をするか決めてるの?」

 よくよく考えてみると、僕は事件解決後の人生設計を全く考えてなかった。僕はただ折角生き残ったのにまた死ぬのはごめんだと思いながら、事件に取り組んだだけであった。

「それなら、私と一緒に行く?」

 それはマリュート、僕らを殺そうとして、そして僕らに殺されようとした人間の提案であった。罪滅ぼしか、それとも僕を気に入ったのか、いずれにしてもこの期に及んで僕を消すなんて考え波も持っていないだろう。

「変なこと考えてない?」

「わかる?」

 彼女はいたずらっ気の顔をして僕を見た。

「でも、一人よりかはいい。」

「ありがとう。」

 そういって僕と彼女は両手を取り合い唇を重ねた。そのその光景をあきれ顔を作りながらも、労いの気持ちで相棒と科学者は見ていた。

「マリュート、イーターを頼んだよ。」

「わかってるわ、あなた達の義理も果たしたから、もう縛り付けるものもないわ。」

 僕はその言葉を聞くと、後ろのフラッシュの嵐を背に新しい道へ向けて歩いていく。いつしか僕はこの街で鳥よりも高く飛べる翼を持ったような気がした。

 

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マルドゥック・ハイブリット @bigboss3

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