あるアイドルの死 【Episode:7】

〔7〕


 ログアウトしてゴーグルを外したのとほぼ同時に、リードが車に戻ってきた。


「何か収穫はありましたか?」

「合田はミントの管理者プロデューサーとして、その界隈で有名だったようだ。同時に、ララベルの管理者に嫌がらせなどもしていたようだ。賛同していた人物達の情報をピックアップして、あんたのタブレット端末に送っておいた」

「さすが、仕事が早いですね」


 リードが送った情報を確認し、電犯に捜査依頼を掛ける。それにしても……と、俺は無精髭が薄く生えた顎を撫でる。


「合田は何故、殺されたんだ? ゴーグルを探った限りじゃ、金銭や恋愛関係のトラブルはなかったようだ。あるとすれば、電脳アイドルに対してのアタックくらいだ」

「……となると、ミントの関係でトラブルがあった?」

「ミントのファンや管理者とは上手くやっていたようだ」


 リードも同じように首を傾げ低く唸り、その時、彼のモバイルフォンに着信があった。応答したリードの横顔に緊張が走り、何かあったのかと彼を見つめる。

 電話を切ったリードが、微かに眉根を寄せながら言う。


「先程、通報がありまして……兎羽野さんがピックアップした人物の一人が他殺体で発見されたそうです」

「なんだと?」

「合田さんと同じく、刺殺のようです。今、念のために他の対象者の元に捜査官が向かっているようです」


 MELからララベルが姿を消し、そしてミントの関係者たちが殺されている……一体、これはどういうことなんだ……?

 その時、今度は俺のモバイルフォンに着信が入り、その相手がウィリーだったので訝りながら応答する。


「ウィリー、どうした?」

『と、兎羽野! た、大変だよ!』

「なにがあった!?」


 まさか、合田などを襲っている人物が乗り込んできたのか!? 思わず焦って声を上げる俺に、ウィリーが泣きそうな声で言う。


『ララベルちゃんが、暴れてるんだよう……!』

「なんだと!?」

『どうしよう、どうすればいいんだよう、兎羽野ぉ!』

「落ち着け、ウィリー。MELで暴れてるんだな?」

『そうなんだよ、今、ゴーグルにランデブーポイントのアドレスを送るから、早く来てよ!』

「……分かった、すぐにいく」


 通話を切って、俺は両手で顔を擦る。ウィリーの構築したライブ会場や、合田のゴーグル内の情報が頭を掠める。


「兎羽野さん、ウィリーさんに何かあったんですか?」

「いや……ララベルがMEL空間で暴れているらしい……」

「なんですって!?」


 ぎょっとするリードを制し、もう一度ゴーグルを手に取った俺は、はたとあることに気付いて、リードを見やる。


「あんた、ウィリーのゴーグルの情報を脳内に記憶したんだよな?」

「え、ええ……それがどうしたんです?」

「ライブの様子はコピーしたか?」

「一応してありますよ」


 よし、いいぞ……! そう独り言ちながら、俺は後部座席に放ってあった鞄から、専用のケーブルを取り出し、彼に差し出す。ぎょっとするリードに、俺は軽く頷く。


「その映像をタブレット端末に映してくれ」

「え、ええ……」


 リードがこめかみのコネクターにケーブルを差し、つなげたタブレットにライブ映像を流し始める。俺は液晶画面を操作し、観客席をズームした。


「何を探しているんですか?」

「皆勤賞のやつを探してる」


 リードも不思議そうにタブレットを覗きこみ、俺はまた別の日のライブ映像を見つめながら言う。


「アンチじゃないんだよ」

「ええ?」

「よし、この日にもいるな」


 俺はいくつかのライブにその人物がいるのを確認して、再びゴーグルを手に取った。


「リード、俺がゴーグル経由で、ある人物の情報を送るから、そいつのいる住所に向かってくれ」

「え、ええ……分かりました」


 目を白黒させながらリードが頷き、俺はウィリーが送ってきたランデブーポイントへとダイヴする。

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