あるアイドルの死 【Episode:8】

〔8〕


 ウィリーが送ってきたランデブーポイントにアクセスしたのと同時に、俺を待ち構えていたように、奴が泣き顔をこちらに向ける。


「遅いよ、兎羽野!」

「悪い、少し立て込んでいてな……」


 言い終わるが早いか、ウィリーが俺の腕を取り移動しようとするので、それを制する。焦れたように俺を睨むウィリーを落ち着かせるようにしながら言う。


「落ち着け、ウィリー。お前のララベルのライブに来ていたこの人物を知っているか?」


 そう、俺が切り取った画像をウィリーに見せると、ぽかんとしたように口を開ける。


「……知ってる。ツグミ ルリちゃんっていうの」


 ツグミ ルリ……ひっくり返せば瑠璃鶇、またしても青い鳥だ……この人物が、ルナとノアの秘密の庭などの構築コーディングを手伝い、ファントム・ヘヴンへと転送したのだろうか。


「ツグミ ルリっていうのは電脳ネームなのか?」

「さあ? よくわかんない。俺っち、この人から花束とかファンレター沢山貰ってて、そこに書いてあった名前だよ」

「そうか……分かった。リード、聞こえるか?」

『ええ、聞こえますよ』

「事件に関わっているかどうかは分からないが、この人物のリアルの所在地などを調べて、すぐに向かってほしい」

『分かりました』


 リードにデータを送り、待たせたなとウィリーを振り返ると奴は道具箱からスティンガーミサイルを取り出しており、俺はぎょっと後退りする。


「何をしているんだ?」

「武器がないとマズいんだってば! ともかく、早く行こう!」

「あ、ああ……」


 迷彩柄のヘルメットまで被り出したウィリーの気迫に圧されるように、俺は奴に手を引っ張られて、移動を開始する。

 移動した先は表層階層の空間で、到着した瞬間に辺りに響き渡る叫び声や悲鳴に、ぎくりと身体を強張らせる。

 そこは、だだっ広い野原のような場所で、離れたところに野外ステージのようなものがある。


「なんだ……?」

「あそこ、電脳アイドルのフェスの会場なんだけどさぁ……急にあれが……」

 そうウィリーが指さしたものを見て、俺は思わず固唾を呑んだ。ステージの裏から現れたのは、巨大なララベルの姿だった。ララベルは、ステージにいる電脳アイドルや観客を両手で掴むようにし、口の中に放り込んでいる。


「な、なんだ!? あの巨大なララベルは……!」

「わ、わかんないけど……他のステージの客とかアイドルも食って回ってるんだよう……!」


 ウィリーが泣き声交じりで言い、俺は道具箱からキットを取り出して、起動させる。そこに現れた黒を基調にしたバイクに気付いて、ウィリーが瞳を輝かせた。


「うお!? 兎羽野、すげえかっこいいじゃん、このバイク! あっ、ホイルが青く光ってるう!」


 俺はバイクに跨り、興奮するウィリーに「いいから、乗れ!」とタンデムシートに促す。


「振り落とされないように、しっかり掴まれ!」


 ウィリーが頷いたのと同時にバイクを発進させ、ララベルが暴れまわっているステージへと向かう。フルスロットルにすると、興奮したウィリーが、ギャハハハ!と甲高い笑い声を上げる。

 数万ピクセルを疾走し、ステージに辿り着いた頃には、ほとんどの観客が巨大なララベルに食われていた。バイクをターンさせ、同時にウィリーがタンデムシートから飛ぶようにして降りる。


「ウィリー、一発くらわせてやれ!」

「イエッサー!」


 ウィリーが猿のような身のこなしで着地し、担いでいたスティンガーミサイルを撃つ。ビシュン!と空間を切り裂くような音と共にミサイルが真っ直ぐにララベルの額に向けて発射された。

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