未来の旦那さまから招待されました


 記念パーティーの際、クリフォードにこっそり言われた「また屋敷に来るといい。……ああ、シリルには内緒で」と言う言葉は、あの場での社交辞令だと思っていた。

 だからこそ、最推しに近付くためにシリルと恋仲にならずに仲良くなる。という難易度の高いことをしようーーと言ってもどうすれば良いかは分からないけどーーとしていた矢先、寮の部屋に手紙が届いた。


 手触りの良い上質な封筒に押されている封蝋はシーグローブ家の紋章だ。

 シリルからエリーナについての手紙だと思った私は、ペーパーナイフで切った封筒から取り出した手紙を読んで「ひゅっ」と変な声が出た。

 曰く


『1週間後、我が家にお越し頂けませんか? お茶会でも創立パーティーでもゆっくり話せなかったので、ぜひ、お茶でもしながら話ましょう。ああ、シリルには秘密ですよ。 


 クリフォード・シーグローブ』


「……え、え、え」


 ちょっと待とう。ここは落ち着くべきである。


 ほら深呼吸。吸って吐いて吸って吐いて…………


 何度か深呼吸を繰り返し再度手紙に視線を落とす……いやむり落ち着けない!

 社交辞令だと思ってたお誘いが本当に来た。え、なにこれ夢?


 私は手にした手紙をもう1度ゆっくり読む。

 何度読み返してもそこにあるのはクリフォードからの招待で、光にかざしても暗くしても浮き上がってくる文字など無く、封蝋の紋章もシーグローブ家のものだ。


「返事、書かなきゃ」


* * *


 翌日の朝、学校へ行きすがらクリフォードへの返事を郵便屋さんに預け、一緒に母にも誘われた旨を連絡した。

 放課後、学園の門前に家の馬車が迎えに来ていると言われ向かうと、そこにはレオナルドの姿があった。


「ケイシー奥様から急ぎクロエを迎えに行けと言われて来たんだが……どうした?」

「ちょっと、断れないお茶会の予定が入ってね」

「ああ。だから奥様、ロア様も呼び出してたのか」

「ごめんね」

「別に。そろそろ旦那様も奥様も領地に戻ろうかって話してたからその前で逆に良かったんじゃないか」


 アッカーソン家の領地は炭鉱を主な産業にしており、どの炭鉱をどのくらい掘削するか、などは代々当主が判断していると言う。

 堀尽くしてものが採れなくなる。なんてこともあるし、どんなに気を付けて作業していても炭鉱は安全な場所ではない。数年に1度大きく崩れて怪我人が多数、下手をすれば死者が出る。そんな場所ゆえに長く領地を離れることはしない。


 王都のタウンハウスには使用人たちが詰め、常に手入れをされている。ちなみにレオナルドは私が学園に入学するタイミングで一緒にタウンハウス勤めとなった。


 じゃないと続編で攻略対象にならないよね、うん。


「今回は珍しく長い滞在だったものね」

「クロエがこっちに居るからな」

「……」


 馬車に乗り込むと従者が出発を告げる。

 アッカーソン家のタウンハウスは王都の端にある。が、学園からは馬車で5分。歩いても15分程度だ。


 貴族ってとことん運動不足なのになんで太らないんだろう。


 というのは最近の「私」の疑問である。

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乙女ゲームの正ヒロインに転生したけど、攻略対象外が最推しなのでそちらを攻略します。 纈(ゆはた) @yuhata0024

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