エリーナ・エヴァンスについて


 エリーナの父は地方の富豪でその地域では名を知らない者は居ないほどの権力者である。

 地域を治める子爵と協力し、その地域でしか取れない野菜を特産品にし、道路の整備や流通の確保などで尽力した功績を称えられ、1代貴族の男爵を拝命したとの事だ。


「経済的には変わらないですが、爵位を貰うと色々と特権がある上に、社交界に出入りが出来るのでエリーナ嬢とその母君は舞い上がって居られたようで」


 一代貴族である男爵を与えられた者たちは、爵位持ちだけが参加出来る社交界で娘をより良い家へと嫁がせようと必死だ。

 野心があるが故に貴族になれた者たち、と言うのが代々爵位を継いでいる大手貴族の感想である。


「で、なぜ私は狙われたのでしょう」


 いや、まあ正直、同じクラスに公爵とか侯爵とか伯爵家の人間でかつ、見目麗しい将来有望株とお話出来るたかが子爵家の人間がいたら面白く無いだろうなあとは思う。

 子爵とは言え、アッカーソン家はそこそこの歴史を誇っているし、一代貴族に言われたくはないけれど。


「……あー、と、公爵とか公爵に直接お誘いされているから、ですかね」


 シリルは苦笑気味に何とも歯切れの悪い言い方をした。

 あら、伯爵(自分)は抜いたのね。


「逆恨みですかね」

「だと思います」

「……」


 はあ。と溜め息をついてシリルの入れてくれた紅茶を口に含む。

 貴族としての立ち回りは「クロエ」が知っている。ただ、自分より下の爵位は男爵しかおらず、逆恨みをされた事もないので今回は何をどう動けば正解なのか分からない。


 と言うか、そもそもエリーナなんて悪役令嬢キャラ居なかったんだから分かるはずない。


「ひとまずモーガン先生に言って席を替えて頂きましょう。学校では身分関係なく、と言うのがルールなのでクラス替えは2年に上がるタイミングで無いと無理でしょうし」

「そうですね。明日の朝、モーガン先生のところへお話に行きます」


 紅茶のカップを両手で持ちながらそう告げると、シリルは私の手に自分の手を重ねた。

 カップから視線を上げてシリルを見ると、柔らかく微笑んでいる。


「私も着いて行くから大丈夫」


 ね?と首を傾けるシリルの金髪が揺れた。


* * *


 この時、「私」は知らなかっただけだった。


 エリーナ・エヴァンスが、「私」がやっていた乙女ゲームの続編のヒロインだと言うことに。

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