悪役令嬢は予想通りでした


「さて、まずはセシルに勝手に話して申し訳ありません。彼の家は諜報活動に優れているので協力して頂きました」


 テーブルの上に置かれた紅茶を音も立てず持ち上げ、優雅に1口飲み込むシリル。言葉としては謝っているが、果たして本心はどうだろうか。


「で、何かお分かりになったんでしょうか?」


「ドレスを汚した黒いもの。あれの入手経路から辿ったところ、犯人が分かったと」


「……ずいぶん早いんですね」


 ゲームの中にもセシルが諜報活動をしている描写はあったが、しかしそこを深く掘り下げられることは無かった。


 唯一あったのは、何だっただろう。


「あの黒いものはインクだったんだけど、特別なものですぐ買った人間が割り出せました」


「そうなんですね」


 特別なインクがあることは知っている。

 密書に使うものや、落ちにくいもの、付属されている液を使うと簡単に消えるものなど一口にインクと言ってもその使用用途は様々である。

 しかし、クロエの家は王都から離れた炭鉱だけが唯一の資源である小さな領土。王都から離れていたし、炭鉱夫たちと遊ぶのが楽しくて幼い頃から貴族が嗜むものにはあまり興味がなかった。


 前世の記憶が戻った今、その傾向は顕著で正直、あの黒いものが何なのか全く分からなかった。


「あれ? でも、どうして調べられたんですか? 私のドレスは」


 ブラッドフォードに連れられカイルに会い、汚れた部分は全部切り落とされたのだ。ドレスを汚したものがインクだとどうやって調べたのだろう?


 なんて首を傾げると


「ああ。それならクロエ嬢の肩を抱いた際、クリフォード兄上の服と手に付いていたようで」


 シリルはさも当たり前のように爆弾を投下した。


「……え、クリフォード様のお召し物に」


「ええ。それをセシルに渡して」


「あ、の!」


「はい?」


「あの、クリフォード様のお召し物の弁償を」


「ああ。気にしないでください。兄上も気にしてませんでしたし」


 気にするなと言われて気にしない人って居るのだろうか。

 しかも汚したのは最推しが着ていたもの。


 え、いや本当に気にしないとか無理だよ!


「流石にそれは私が無理です。事が落ち着いたら是非、何かお礼をさせてください」


「分かりました。兄上にも伝えておきますね」


 ニッコリと笑ったシリルにほっと息を吐く。

 と、シリルはコホンっと1つ咳払いをすると真剣な顔つきになり


「で、このインクを入手した者ですが」


 手元にあった視線を私へと据え、ゆっくりと言葉を紡いだ。


 インクを入手した者の名は、




「エリーナ・エヴァンス」




 予想通り過ぎて思わずため息が漏れた。

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