レオナルド的クロエ・アッカーソンという人物について
俺がこの家で働き始めたのは、クロエが生まれる少し前だった。
俺の家は代々アッカーソン家に仕えている家で、俺も物心付く頃にはもうアッカーソン家に仕えるのだと理解し、勉強していた。
そんなわけで、働きはじめて数年後、アッカーソン家にクロエが生まれた。
碧がかった灰色の髪は当主であるエヴァン様と似ている。
エヴァン様は碧がかった銀だが、クロエのそれは灰色で少し濁った感じの色だ。
長いその髪は緩やかなウェーブを描いている。濃く深い翡翠色をした瞳は大きく、奥様のケイシー様と同じである。
ルーリルという王都から馬車で1日半ほど離れた村で育った。
ルーリルはヌエッタ炭鉱を筆頭に大小いくつかの炭鉱がある街で、いつも炭鉱夫たちの声が響く活気のある街で、クロエは蝶よ花よと大切に育てられた。
「レオナルド? どうしたの?」
「いや。何でもない」
だからと言って、ではクロエが大人しかったかと言うとそうでもない。たまに俺と一緒に屋敷から抜け出して、炭鉱夫のおじちゃんたちと街中で遊んでは兄であるオリバー様に叱られた。
もちろん俺も。
兄のオリバー様はそれこそ当主であるエヴァン様や奥様であるケイシー様よりクロエの事を大切にしていた。それはもう目に入れても痛くない!を地で行くほどに。
正直、ちょっと引くくらい。
結婚してからちょっと落ち着いたけど。
そんな明るい元気なクロエは、学園に入る前に爵位の低い自分なんて、と良く言っては落ち込んでいた。急に何があったのか、学園に1人で平気か不安だったが、今は昔の元気なクロエだ。
「ねえ、レオナルド。また市に連れていってくれないかしら」
「……今度は何を買うんだ?」
「もうすぐお父様とお母様の結婚記念日でしょ。何かプレゼントを渡したくて」
「……なるほど。わかった。ちょっと予定調節するから待ってろ」
「ええ。……あ、ついでにお兄様の誕生日プレゼントも何か見繕わなきゃ」
クロエは当主様と奥様がそれはそれは大好きで、誕生日や結婚記念日はもちろん、何でも無い日にも何かプレゼントをしている。
ついでだと兄のオリバー様にもプレゼントを見繕うあたり、オリバー様の事も大好きなんだと思う。
「ねえ、レオナルド」
「ん?」
「本当にどうかした? 何か悩みごと?」
そして、俺のこともきっと、好きでいてくれているのだろう。
でもそれは、俺が抱いている気持ちとは違う。
「……何でもない」
「でも何か悩んでる感じに見えるわ。私で良ければ話くらいなら聞けるわよ」
クロエは俺の顔を覗き込むようにしながらそう言った。
「……」
クロエのその顔が何ともイラっとして、思わずおでこを指で弾くと俺はクロエのために淹れていた紅茶を丸テーブルに置いて
「クロエに話したところで解決しそうもないし、今度オリバー様にでも相談するわ」
そう笑った。
お前のことを考えていた。なんて本人に言えるかばーか。
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