お誘い状が2通届きました


 ジャレットからのお誘いを丁寧に丁寧に、失礼の無いようにかわしてから数日後。


 授業が終わり寮の自室でのんびりしていると、ふいにコンコンと2度、部屋にノック音が響いた。


「はーい」


「クロエ・アッカーソン子爵令嬢にお手紙が届いております」


 その声は学園寮内で、主に郵便配達をお仕事にしている人の声だった。

 守衛が守り、敷地内に入るのに何度も審査を通過し、ボディチェックも持ち物検査も徹底されている学園内。親や兄弟、親族のほかにも何だか知らないが色んなところから色んな届け物が届く。


 郵便配達を主にしている人は、それをすべて危険が無いか確認し、それぞれの宛先へ届けるのがお仕事である。


 ちなみにこの郵便配達の人もやはり乙女ゲームの登場人物。

 モブであろうが顔立ちは整っている。隠れファンとか普通に居そうな感じだ。


「……有難うございます。ご苦労様です」


「いえ。では」


 扉を開けて手紙を受け取り、首を傾げる。

 綺麗で流暢な字体で綴られているのは確かに私の名前だった。しかし、裏面に差出人の名前は無い。


「誰から……2通?」


 2通の差出人の無い手紙。

 そのどちらの字体も見覚えのないものではあるが、配達員が問題なしと判断したと言うことはこれは、差出人が配達員に手渡ししたものなのだろう。


 学園寮内の人間であれば中身は改めてられるが、配達員に手渡ししても問題はない。


 椅子に腰掛け、ペーパーナイフで丁寧に封を切り、中身を取り出す。程よく華やかで、品のある紙は一目で高価なものだと言うのが分かる。

 そして、その紙に綴られた文字は、やはり綺麗で流暢だ。


 その綺麗な文字を読み進め…………


「……あり得ない」


 私は思わず、天を仰いだ。



* * *



「おはようございます。クロエ嬢。……顔色が宜しくありませんが、どうかしましたか?」


「おはようございます。ジャレット様。いえ。少し夢見が悪かっただけで、何でもありませんわ」


 結局昨日は、手紙の返事を考えるのを放棄し早々にベッドに潜り込んだ。

 潜り込んだがしかし、寝付くのに大分時間が掛かった。


(ああ、もう! なんで! どうして! よりによって!)


 よりによって、何で手紙の内容が創立記念パーティーでのダンスのお誘いなのだ。


 そして、何でよりによって差出人がセシルとシリルなのだ。

 いや、シリルはいい。どうにかして仮面の特徴を聞けないか考えていたからちょうど良かった。


 でも、セシルはちょっと、だいぶ予想外だ。


「もうすぐ創立記念パーティーですし、あまり無理しないようにしてくださいね」


「お気遣い有難うございます」


 創立記念パーティーまで、あと2週間。


 頭が痛い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る