正ヒロイン クエロ・アッカーソンについて
「私」が知っている乙女ゲームの正ヒロイン、クロエ・アッカーソンはとにかく優しく大人しい子だった。正しく愛されヒロインと言ったところか。プレーヤーの間では評価は真っ二つだったけど。
貴族とはいえ、子爵である事を引け目に感じ、最初は各攻略対象ルートで出てくるライバルたちに悉く美味しいところを持って行かれる。ぶっちゃけ操作している側からすると「ふざけるな!」と言いたくなるほどに優しい……軟弱なヒロインだった。
だから決して、決して、セシルの家でのパーティーでオリヴィアに叩かれそうになった時それを面倒だと感じたり、学校でエリーナに斜め上の怒りをぶつけられた時わざわざエリーナを煽ったり、なんて事はしない。
うん。絶対しない。
(とは言え、中身は「私」だしなあ)
対して、現在クロエの中身である私はそれなりに喧嘩もするし、それなりに口も悪いし、それなりに猫も被る普通の女だ。
貴族でも無い、平凡なサラリーマン家庭に生まれた平凡なOL。
面倒なものは面倒だし、嫌なものは嫌。お家のために我慢など考えられるはずがない。
「お父様、折角のお話ですが……」
「……そうか。良い話だと思ったのだが」
「今は学園生活で精一杯で、まだ婚約などは考えられないのです。申し訳ありません」
学園が休みの日、父に呼ばれ王都の屋敷に行くと何故かお見合いの話をされた。どうやらジャレットかセシルの屋敷のパーティーで踊った方の1人らしいのだが、申し訳無いが覚えていない。
伯爵家長男で跡取りで現在23歳。
そしてクロエを第一夫人(正室)として迎えたいとの事。顔は覚えていないが条件だけ見れば良い。
良いがしかし、私には、勝手に心に決めた相手が居るからちょっと無理です。ごめんなさいお父様。
と言うことでお断りをし、今日はこのまま王都の屋敷に泊まろうと自室へ向かった。
* * *
「見合いの話、断ったのか」
「……レオナルド。やっと学園生活に慣れて来たところでお見合いは流石にね」
「そうか。……………………よかった」
「? 何か言った? レオナルド」
「いや。なんでも」
「そう?」
「ああ。もう遅い、早く寝た方がいい」
レオナルドは私をベッドへと押し込み、おやすみと言って出ていった。
ふむ。小さな声で「よかった」と聞こえたのは気のせいだろうか。
しかしそれより、
「乙女ゲームの正ヒロインは王子を落とすまでお見合いの話なんて無いはずなんだけどなー」
中身が違うせいか、やっぱり少し「私」の知ってる乙女ゲームとは違うようです。
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