やっと王子の登場です
「……これは驚いたな。シリル」
「……あ、いや、申し訳ありません」
自分に向かって伸びてきた手を横から弟に奪われたクリフォードは、何度か瞬きを繰り返した後、噴き出すように笑った。
その声に我に返ったのか、シリルはバツの悪そうな表情で謝る。
私はと言うと、ただただシリルに掴まれた手を見つめながら驚くだけだった。
シリルと言う男はゲームの中では兄を尊敬するあまり、兄には手も足も出せない少し頼りない一面を持つキャラクターだった。
三男と言う立場上、家を継ぐことは出来ないし条件の良い格上の令嬢の家に婿養子、と言うのも実は中々難しかったりする。故に兄たちを目の敵にする人も少なくはない。
しかし、シリルは素直に兄たちを尊敬し、兄たちの役に立ちたいと日々努力している。
兄たちの言うこと、やることは絶対。そんな、ほんの少し、己の意見の無い一面を見せることがゲームにはあった。
だから、シリルが兄の手を遮るように私の手を掴んだことに、驚き以外の感情を出すことが出来なかった。
「クロエ嬢も申し訳ありません。痛かったですよね」
「いえ、大丈夫です」
パッと離れた手。
離された手が微妙に熱を持っている。
「……ふむ。シリル、クロエ嬢をエスコートしてあげると良い。早くしないとセシルがこちらに来てしまう」
「え、や、でも」
「セシルが来たら厄介だろう?」
「…………はい」
* * *
「やあ、お嬢様」
「セシル様、お久し振りでございます」
今まさに別の令嬢とお喋りしていたであろうセシルは、シリルにエスコートされた私を見て声をあげた。
真っ黒な仮面と、真っ黒な服を着ているセシル。銀の髪は首あたりで一括りにしている。
「シリルが離れてから全然帰って来ないし、そのうちクリフォード様も消えたから誰を探しに行ったのかと思えば」
「悪かったなセシル」
「クリフォード様に謝って頂けるなんて光栄ですね」
「……まったく」
「申し訳ございません。シリル様とクリフォード様と少しお話をしてしまって」
「遅くなって申し訳ありません。セシル」
「いやいや。シリルがクリフォード様を差し置いてお嬢様をエスコートなんて珍しいもんが見られたからチャラにしてあげるよ」
ニヤニヤと笑うセシルの視線は私とシリルの手にいっていることは、仮面越しにでもわかった。
と、そんなやり取りをしていると音楽がピタリと止まった。
ホールに集まる皆が一様にグラスを片手にホール正面に注目していると、司祭が大きく声を上げる。
ブラッドフォード・ワイズの初登場である。
第一王子と第二王子の後ろ、金色の髪を揺らしながら堂々と登場するブラッドフォード。その顔はまだ仮面をしておらず、透き通る碧い眼を晒していた。
「……」
最初に息を飲んだのは誰だっただろう。
私はこの時初めて、息を飲むほどの美しい男の人がいる事を知った。
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