仮面舞踏会は初めてです


 シリルによって投げられた爆弾を、私は上手く打ち返す事が出来なかった。


 いや、正確に言えば出来るはずが無かったのだ。


 で、どうなったかと言うと


「金黒の仮面をしています。だからクロエ嬢、私を見付けてくださいね」


 と言われ、今日の仮面舞踏会の会場でシリルを探すことになった。


 そう、今日。


 仮面舞踏会は今日なのである。



* * *



 学園の大ホールには豪華絢爛なシャンデリアがいくつも釣り下がり、屋根は半円で音が良く響く構造になっている。


 端には音楽団がおり、参加者を迎えるための音楽を奏でていた。

 正面のステージのようなところには装飾が豊かな椅子が2脚仲良く並んでいる。あそこには王と妃が並んで座る。子息たちは座らないのだろうかと考え、そう言えばゲームでは中庭に抜けてくるんだったと思い出す。


 ホールの左右には壁にそってベンチもあり、座って休めるようになっている。


「王たちが出てくるまでは暇なのよね実は」


 ウェルカムドリンクを飲みながら一人ごちる。

 さて、今日の私のドレスだが、いくらジャレットやセシル、シリルからダンスに誘われているとは言え一定の攻略対象の色を身に纏うわけにもいかない。ゲーム上でもここでは特定色は使われていなかった。


 と言うわけで、紫のドレスである。


 え? ロアの色じゃないかって? 


 まあまあ、ロアが攻略対象になるのは続編だ。大目に見て欲しい。


 仮面は白一色にした。単色だし大勢と被るだろうと思っていたそれは、しかし主人公補正でも掛かっているかのように今のところ誰とも被っていない。


「恐るべし正ヒロイン」


「……クロエ嬢、ですか?」


「……っ!」


 ポツリと呟きドリンクを口に運ぼうとしたその時、後ろから小さな声で私の名前を呼ぶ声がした。


「……金黒の仮面。シリル様、ですか?」


「ああ。良かった合っていて」


「良く分かりましたね」


「……何となく、クロエ嬢だと思ったんです」


 ふふ。と笑うシリルは綺麗な金の髪を後ろに流し、細身の黒いスーツを着て、事前に教えられていた通り金黒の仮面で金の瞳を隠している。


「私が見付ける前に見付かってしまいましたね」


「……! そうですね」


 優しく穏やかに笑っているであろうシリルは、金の瞳を隠していても綺麗だった。


「シリル、見つかったのか」


「クリフォード兄上。ええ、無事に」


「……クリフォード様」


 シリルに近寄って来た青金の仮面をした男性はシリルの肩を軽く叩くが、シリルはそれに驚くことなくシーグローブ家長男の名前を呼び答える。


 青金の仮面は「そうか」と小さく呟き、私の方へと向き合った。


「シリルが貴方を探すと言っていたので気になっていてね」


「……あ、の、なぜ、クリフォード様が」


 仮面舞踏会は学園の生徒と教師以外は王族しか参加しないはずだ。

 クリフォードがここに居るのはおかしい。


「ああ。今年は周年だからと卒業生から何人か呼ばれているんだ」


「そうなのですか。私の周りに卒業生がいらっしゃらなかったので存じてませんでした。申し訳ございません」


「いや、気にしていない。しかし、無事に会えて良かったな。シリル」


「はい」


「クロエ嬢、向こうにセシルも居るんだ。良ければご一緒しないか」


 「有難うございます」と返事をし、お誘いを受けようとクリフォードが差し出して来た手を取ろうと手を伸ばす。


 と、その手を横からシリルに掴まれた。

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