さあ、パーティーの始まりです


 ブラッドフォード・ワイズはこの国の第3王子である。


 襟足の長めの金髪と、透き通るように碧い瞳はいつだって注目の的だ。20歳と言う若さで既に外交面で頭角を現しており、ブラッドフォードが出席するパーティーはまさに戦場。女の戦いの場である。


 とは言え、第3王子。継承順位は3番目。


 ヒロインと結ばれる王子様は継承が確定されている第1王子であるのが普通だろう。では何故、第3王子であるブラッドフォードが攻略対象なのかと言うと、そこは貴族社会やら王族やらの面倒な駆け引き故に起こった悲劇が物語の根底にあるからだった。


 正直、あまりと言うか物凄く関わり合いになりたくない。


「今日は楽しんでくれたまえ」


 ワァァァア。

 なんて乙女ゲームの内容を思い出していた間に国王の挨拶が終わり、音楽隊が楽器を構える。


 パーティーの始まりである。


 ブラッドフォードを含めた王子3人は国王と王妃と少しばかり話したあと後ろへと下がっていった。この後は着替えて仮面をつけ会場に紛れるのだろう。


「クロエ嬢」


「はい?」


 何となくブラッドフォードの行方を見ているとシリルに名前を呼ばれたので、シリルの方へと体を向ける。

 するとシリルはやうやうしく膝を付くと手を差し出し


「私と踊ってはくれませんか」


「……はい。喜んで」


 元々誘われていたのだ。

 会場で見付からなければひっそりと壁の花になるところだったが、探し出された以上断る理由はない。


 何より、隣に最推しがいる。最推しの弟の誘いを断るなんて真似、最推しの前で出来るはずがないではないか。


 と、シリルの隣のクリフォードが思い立ったかのように「シリルの後は私と踊ってくれないか?」と言い出した。


「……っ」


「駄目だろうか」


「い、え。申し訳ありません。お誘い頂けるとは思わず驚いてしまいました。喜んでお受け致します」


「それなら良かった」


 自然と緩まりそうになる頬を意識的に引き締め、私はひとまずシリルと踊るためホール中央へと歩き出した。



* * *



「なんであの女だけ……」


 それを影から見ている1人の令嬢に気付かないまま。

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