同性だろうと美人には弱いです


 あっという間にシーグローヴ家でのお茶会の日になった。


 季節を考え、明るい青の生地を地に、なるべく落ち着いた色合いでまとめつつ金の装飾も忘れない。舞踏会とは違うシンプルなドレスに身を包んだ私は、わざわざシリル様が用意し迎えにきてくれた馬車に乗り込んだ。


 お茶会には基本エスコートが付かない。


 それはお茶会が昼間に行われるものだから、と言うよりはお茶会が女性専用の雰囲気があるからだろう。


 そのため、特定のエスコートを付けず。と言うのは無い話ではない。

 だからと言って、ホストがわざわざ馬車を用意してくれる事も珍しい話だ。


 馬車の中で流れる景色を見つめながら、私はおもむろにお腹ーーというより胃を押さえた。


(さすがにこんなに早く推しの屋敷に行けるなんて思わなかった)



 それもそのばす。

 シリル・シーグローヴは身分こそ第3位の伯爵とそれほど高く無いたが、攻略難度でいくといまだ出てきて居ない王子に次いで難しいと言われていたのだ。


 理由は簡単。


 シリルの身分が伯爵だからこそ、公爵や侯爵、さらには王子と言った他のキャラクターを差し置いて自分が主人公と親しくなるなんて許されない。と3回に1回はデートを断られ、頻繁に他キャラクターとデートをしていないと好感度がすぐに落ちるのだ。

 それはもう面白いくらいにすぐ落ちる。お花の枯れ具合が半端ない。


「ああ、胃が痛い……」


 シリルと仲良くなりつつ、兄であるクリフォードに近付く。シリルへの好感度を落とさないように他キャラクターへの配慮も忘れない。

 ゲームとしてやるなら、面倒だとは思いつつ割り切って出来るが実際やろうとしている事はただの八方美人であり、愛想振り撒くウザい女である。


 ああ、でも、それでも



* * *



 推しのために頑張ろう!と気合いを入れて訪れたシーグローヴ家の中庭。

 見目麗しい奥方さまにご挨拶をすると、中庭に咲き誇った色とりどりの花も霞む笑顔で


「シリルが呼びたいと仰る女性がクロエ様のように可憐な子だったなんて。これからもシリルと仲良くして下さいね」


 と言われ、その眩しすぎる笑顔に思わず顔を背けたくなった。

 1番下のお嬢様であるエマ様にも「シリルお兄様と仲良くしてあげてください。あ、でも、あんまりとっちゃ、や、です」なんて言われて、衝動的に抱き締めなかっただけ褒めて欲しい。


「こちらこそ、宜しくお願い致します。……エマ様も、もし宜しければ仲良くして頂けるととても嬉しいです」


 スカートを少し持ち上げて奥方さまに頭を下げ、その後、エマ様にも同様に頭を下げるとエマ様は「私がお席にご案内してあげる!」と元気に私の手を取った。


 私は、エマ様に手を引かれながら、高い位置でツインテールにされているエマ様の綺麗な金色の髪が揺れるのを何となしに見た。

 クリフォード様は青髪だけど、シリル様とエマ様は綺麗な金な髪だ。糸のようにしなやかそうなその髪が、ふわりと風に揺れる。


「あ、お兄さまがた!」


「……ん?」


 と突如、エマ様が私の手を離しパタパタと1人走っていってしまった。

 私はエマ様が駆けていった先に視線を向け


「シリル様。それにクリフォード様にルーク様」


 固まった。

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