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 スマートフォンの画面を覗き、そして彼女は驚愕した。

(けっ……圏外? 何で? 何で! 何で!)

 彼女の体は再び震え出した。

 顔が青ざめる。

 彼女の口からヒューっと息が漏れる。

 スマートフォンを手に、狭い穴の中をクルクル回る。

(圏外! 圏外! 圏外! 圏外! 何でよ? どうしたら……)

 彼女の呼吸が乱れる。

「たっ……」

 彼女は顔を上に向ける。

 穴の中に入り込んだ月の光が彼女の顔を照す。

 彼女は顔を上げたまま、大きく息を吸う。

 彼女の心臓がドクドクと音を立てる。

「助けて……」

 彼女はもう我慢出来なくなった。

「助けてっ……助けて! 助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 彼女は叫けぶ。

「助けて! 助けて! 助けて! 助けて! 誰か助けてっ!」

 もう我慢出来ない。

 こんな恐ろしいのは我慢出来ない!

 自分の声を聞き付けて男が戻って来るかも知れないが、もう我慢出来ない!

 彼女はパニックを起こしていた。




 場面は変わる。

 時間は夜の十二時を過ぎていた。

 こじんまりとした一軒家。

 けれど、小さくても手入れの行き届いた庭が有り、温かい家庭である事が一目で解る家だった。

 その家の庭から、女の声で悲鳴が上がる。

 良はその悲鳴で目を覚ました。

(ママだ!)

 良は声の主が自分の母親で有る事が分かると、二階の自室を飛び出し、階段を駆け足で降りてリビングの庭に面したガラスの引き戸を開けた。

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