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 そこには、庭にうずくまる母親の姿があった。

「ママ、どうしたの?」

 声を震わせて言う良に、母親は厳しい口調で言う。

「どうしたのじゃあ無いわよ! 良! あなたでしょ? 物置の前に穴なんかほったのは! ママ、その穴に足を取られて転んでしまったのよ! こんな危ない事をして、どういうつもりなの!」

 母親の足から血が流れている事を見付けて、良は小さな声で「ごめんなさい」と言った。

「穴なんかほったら危ないわ! 知らずにママみたいに怪我をする人がいるかも知れないじゃあないの!」

「ごめんなさい! ごめんなさいママ!」

 良はしくしくと泣き出した。

「泣いて無いで、この穴を直ぐに埋めなさい! 良いわね!」

 母親はそう言うと足を引きずり、家の中へ入った。

 良は泣きながら、母親の言う通りにした。

 庭の片隅に置いて有ったシャベルで穴を埋めて行く。

 自分が遊びで掘った穴で母親が怪我をした事に良はものすごいショックを受けていた。

 母親は暗闇の中、穴に気付かずに足を取られたに違え無い。

 自分は何て危ない事をしてしまったのだろう!

 良は、後悔の言葉を次々思い浮かべながら、うっ、うっ、と泣き声を漏らし穴を埋めた。

 穴が埋まると、足でしっかり地面を踏み固めた。

(あんなに血を流して、ママの足は大丈夫だろうか?)

(ママが歩けなくなったらどうしよう!)

(どうしよう!)

(どうしよう!)

(僕のせいで……)

(僕の穴のせいで!)

 良は不安に駆られた。

 良の目からこぼれた涙が地面にポツポツと落ちる。

『泣いて無いで、この穴を直ぐに埋めなさい! 良いわね!』

 母親の台詞が良の頭の中で響く。

「埋めなきゃ……」

 良は呟いた。

「あの穴を埋めなきゃ!」

 良は物置からスコップを出すと、それを持って駆け出した。

 瞳との秘密の場所へ!

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