第3話アメリカンショートヘアな弟

「お父様、御待たせ致しました」

背中に声をかけるとお父様がくるりと振り返る。やっと話をしていたであろう人物の姿が見えた。


それは私と同じ歳くらいの少年。

ライトグレーのストレートショートヘア、向かって左側に黒のメッシュが入っている。頭から生えた猫耳は黒い。

シワが出来るくらい強くズボンをぎゅっと握っている、不安そうにこちらを伺う瞳はダークグレーだ。


「この子はソラ。彼はね…ご両親を亡くして、独りになってしまったんだ…だから我が家で引き取ることにした。ハルと同い年だけれどハルの方が誕生日が早いから弟になるんだよ」


お父様は優しく微笑み、私に視線を合わせるように屈むと説明してくれる。

「弟……?」

首をかしげると、びくっとソラが怯えたように一歩後退る。



その姿はまるではじめての家につれてこられ警戒しているにゃんこそのもの!!!

あぁぁ、猫耳が垂れてプルプルしてるぅ!可愛いいいいい!!!

大丈夫、怖くないよぉ、お姉さんがもふもふしてあげるからねぇ…………

おっと危ない。

お巡りさん、この人です案件になるところだった。


仲良くしなきゃ!

仲良くなったら、もふもふ三昧にしてやろう…ふふふ。



もふもふモードを必死に押さえてにっこりと笑みを浮かべると、なるべく可愛らしく見えるようにお辞儀をする。

「はじめまして、私はハル。宜しくね?」



必殺、猫被り!……猫だけに。



「…アメリカンショートヘアの、ソラ…です」

まだ怯えながらも挨拶を返してくれたのでまずまずと言ったところだ。


成る程、ソラはアメリカンショートヘアなのか。でも猫耳の見た目は私と大差ない。

「仲良くできそうで何よりだ。ソラの部屋はハルの隣だからしっかり面倒を見てあげるんだよ?」

優しく微笑むお父様に、お任せくださいと胸を張る。



可愛い猫ちゃん……もとい弟と仲良くなって見せましょう!










と、気合いをいれたものの私は見事にソラに避けられていた。



な ん で だ よ!!



お母様やお父様に対しては普通なのに、私が話しかけようとすると全力で逃げる。

最初のうちはまだ慣れていないから仕方ないのかな、と思って居たけれど。

1週間…2週間…3週間と過ぎる頃に私は逃げるソラを追いかけるようになった。


当然ソラはさらに逃げる。

私は追いかける。

逃げる。

追いかける。



くそう、逃げ足はえーな!さすが猫!



いつの間にか庭に出てしまっていた私は、ソラを見失い疲れ果てて庭の木の下に座り込んだ。

ワンピースが土で汚れるかもしれないけど、そんなこと知らない。

子供のうちは服を汚すくらい駆け回って遊ぶのが仕事だ。

私が服を汚しても、お母様とお父様は「元気なのは健康の証拠」と言って許してくれる。


「もー…ソラどこ行ったのよ…」

一人ポツリと呟いて足を投げ出し、木に体重を預ける。

「…折角、弟が出来たのに…嬉しかったのに…嫌われてるなんて、寂しいじゃない」

もふもふできないのはとても寂しい。

もふもふ不足で自分の猫耳を撫でてみたが、何か違う。もふいんだけど、私の求めるもふじゃない。


もういっそ、ふて寝してしまおう。

今日は心地良い風が拭いていて、天気もいい。おまけにここは木の影だから木漏れ日がキラキラしててとても綺麗だ。

葉っぱや草花のいい匂いもする。


ソラも見つからないし、ちょっとだけお昼寝しよ

……日が暮れる前に起きればいいよね


木に持たれかかって目を閉じると、木の葉が揺れる音を子守唄に私はすやすやと眠り始めた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る