ビルメンテナンスを織り込んだビル(現代劇)

地上四階建の校舎は、パイプで組んだ足場に囲まれて久しい。


 ルソー曰く、ビルメンテナンスを考慮しない高層ビルとは、人類の歪みの象徴である。



 淀子ていこはそう言ったが、彼女はルソーについて、そのフル・ネームすら知らない。


「考えようによっては、これは幸福な状況なのではないかな」


 僕は彼の言葉を遮るためだけに、見切り発車の言を発した。


 地上四階建の校舎は、パイプで組んだ足場に囲まれて久しい。

 窓外では作業員諸氏が昼食のパンや、互いの金玉の大きさについて話している。


「はあ? ルソーの何たるかも知らない癖に」


 ルソーの何たるかも知らない淀子は、彼女よりはルソーについて詳しい僕を非難した。


 僕は、


「ふうむ」


 と唸りを返して黙り込んだ。

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