紙谷メイリはヤギに飼われる - 7

「じゃあ俺は帰るね」


 飼育小屋を後にするシロキチを、メイリは寝藁の上から見送った。


「メェ」


 と、遠ざかる背に小さく声をかける。シャリ、と首の鎖が揺れ、立ち上がりかけた腰を下ろす。

 しばらく背中を見つめていると、不意にシロキチは振り返り、目が合った。そうして軽く前肢を振ると、また歩き出した。


 明日からは土日だから、次に彼が来るのは三日後だ。曜日の感覚は怪しくなってきたけれど、いつもより量の多い餌を見れば判る。


 待ち遠しい、というのは違う。恋しいと言うのでも、ないと思う。ないだろうか? どうだろう。


 これは二週間前のシロキチと同じ立場だ。

 メイリが動物達の世話を始めたのは三ヶ月前だけれど、それまでの二年近く、シロキチ達は先輩が一人で世話をしていたはずだ。


 シロキチは先輩リンカをどう思っていたんだろうか。

 自分はこれから、シロキチのことをどう思うようになるんだろう。


「メェ」


 と呟き、メイリは手持無沙汰にウサギの背を撫で、アヒルに餌を投げた。

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