紙谷メイリはヤギに飼われる - 6

 メイリは、両親と、三つ下の弟のことを考える。

 勿論、クーデターからの二週間、一度も会っていない。呼んできてもらおうにも言葉が通じないし、通じた所でヤギに人の顔は見分けられないし、見分けられた所で、ヤギが人の頼みを聞いてくれるはずもない。


 メイリがこうして飼育動物となったのは、クーデターの起こった正にその瞬間、いつものように飼育小屋で動物達の世話をしていたからだ。

 シロキチには、目の前にいるのがメイリか先輩リンカかを見分けることはできても、何百、何千の人の群からそれを見つけ出すことはできない。メイリだって小屋のウサギ達の見分けはつくが、野に放たれた大量のウサギの群から生物部のウサギを探せと言われても、土台無理な話だと思う。


 運が良かったのか、悪かったのか。

 メイリは今でも時々考えている。

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