第24話 メイジマタンゴのピザ

タリーと貴史はキノコの魔物を捕獲しようと飛び出していったヤースミーンの後を追った。一人で戦いを挑んで逆襲されることを心配したのだ。



しかし、二人がギルガメッシュを出ていくらも進まないうちに調子はずれな鼻歌が聞こえてきた。



「ピザ♪。ピザ♪。ピザ♪。」



歌っているのはヤースミーンだ。彼女は眉間の部分にクロスボウの矢が突き刺さったキノコの魔物を足をつかんで、ズルズルと引きずりながら意気揚々と歩いている。



「ピザ食べたかかったんですね。きっと。」



「石窯も用意できているし早速、料理しようか。」



タリーと貴史は凱旋するヤースミーンを少し引き気味に出迎えた。



「こいつはメイジマタンゴだな。キノコ系の魔物の上級種に分類される。見てみろこの紫色の体色がその証拠だ。」



厨房で調理を始めたタリーはよく切れる包丁でメイジマタンゴの手と足を切り落としながら言う。



貴史はタリーの指示に従ってピザの生地をよくこねて寝かせたところだ。



「上級種なら魔法も使うんですよね。」



貴史の問いにタリーはメイジマタンゴの胴体をぶつ切りにしながら答えた。



「そのとおり、こいつは氷系の魔法を頻繁に使うし、回復魔法も使える。魔物の中でも倒しにくい部類に入る奴だな。一度味を見たいと思っていたのだ。」



うきうきした表情でふくらみ始めたパイ生地を見ていたヤースミーンはギョッとして振り返った。



「このキノコそんなに強力な魔物だったんですか。」



「うむ、呪文を使う暇も与えず瞬殺するとはヤースミーンの腕前も大したものだ。」



タリーは手を休めずに答えたが、ヤースミーンは青ざめている。



「私は氷系の魔法は苦手なんだからあらかじめ教えてください。」



「こいつは遠目には同系列の下位種の魔物とそっくりなんだ、あらかじめ警告するのは難しいな。」



タリーはぶつ切りにしたブロックのいくつかをコンテナに入れると貴史に渡した。



「全部は食べきれないからこいつは貯蔵庫に運んでくれ。」



貴史は受け取るとギルガメッシュの地下室までメイジマタンゴのぶつ切りを運んだ。



見ようによっては魔物のバラバラ死体が入ったコンテナだ。


それを運びながら、貴史はさっきのタリーとヤースミーンの会話を反芻する。



そして地下室に着いた頃には彼らを使ったエレファントキング打倒のための作戦が思い浮かんでいた。



貴史がギルガメッシュの厨房に戻ってみるとヤースミーンとタリーは口論していた。



「だいたいタリーさんはすることがいい加減なんですよ。パープルラビットを退治しに行った時も偽物の魔封じのお守りを頼みの綱にして作戦を立てるから危うく全滅する所だったじゃないですか。」



「仕方がないだろ、あんな物使ってみないと本物かどうか判らないし。大体、私は魔法など縁がない世界にいたのだ。君も使っているクロスボウは魔物にも十分対抗できるだろう?。」



「この世界では、魔法も加味して綿密に作戦を立てないとすぐに死んでしまうんです。」



二人がにらみ合っているところに貴史は割り込んだ。



「その作戦なんだけど、俺がエレファントキングをおびき出して、タリーとヤースミーンが隠れ場所からクロスボウで狙撃して即死させるというのはどうだろう。」



タリーとヤースミーンは顔を見合わせた。そしてエレファントキングと戦ったことがあるヤースミーンが先に口を開いた。



「奴は動きが速いし、どんな気配にも敏感に反応します。かわされないように狙撃を成功させるには十メートル以内の至近距離から気付かれないうちに撃つ必要があります。」



「そこまで引き寄せられるほどシマダタカシが生き伸びられるかが問題だな。」



二人とも貴史が単独で勝つとはかけらほども思っていないようだ。



「シマダタカシ。スラチンが使える回復魔法は瀕死の状態から全回復するのを一回がやっとです。死んでしまったらお終いですから死なないようにしてください。」



「とはいえ、やってみる価値はありそうだな。私はシマダタカシの勇気に敬意を表するよ。」



俺も死ぬ事を前提に戦うわけではないよと思いながら貴史は黙ってうなずいた



エレファントキング打倒の作戦が決まったので三人は再びメイジマタンゴのピザ作りに戻った。



タリーがメイジマタンゴのぶつ切りを一口大にスライスすると、それはいつしか食べ物らしく見えてきた。



タリーは発酵したピザ生地を薄くのばすと最後は放り投げながら回転させた。ピザ生地は遠心力で見事に広がる。



タリー大きなピザ生地が出来たところにオリーブオイルを塗り、その上にスライスしたメイジマタンゴを敷き詰めた。そして最後にチーズを散らす。



今回はメイジマタンゴの風味を楽しみたいというタリーの希望でプレーンなキノコピザになったのだ。



午前中から内部で火をたき加熱した石窯はほどよい温度になっていた。タリーはビザを石窯に入れると丈夫な扉を閉めた。



「この温度ならすぐに焼けるはずだ。」



「ピザ~♪。」



ヤースミーンは再びオリジナルピザソングを歌い始める。




しばらくしてからタリーは石窯の扉を開いた。



中から出てきたのはこんがりと焼けたキノコピザだった。



「ピザ!!」



ヤースミーンが歓声を上げる中、タリーがピザをカットし各々がピザを楽しんだ。松茸を思わせるキノコの香りと溶けたチーズ。そして外側はぱりっと焼け内側はふっくらと焼けた生地は絶妙な味だ。



「うまい。やはりメイジマタンゴは最高だな。」



感動するタリーだけでなく、貴史とヤースミーンもピザの味を楽しんだ。



三人が大きなピザをあらかた食べ終わった頃、貴史は森への道を沢山のヒマリア軍の騎士達が行軍しているのに気がついた。



日頃から、レイナ姫の元にはせ参じようとする騎士達は見かけるのだが、今日はひときわ数が多い。



「さっきから見かけるのはヒマリアの正規軍のような気がする、レイナ姫一派の討伐隊ではないですよね。」



貴史の言葉にヤースミーンも心配そうな表情をしている。



「タリーさんはどう思いますか。」



ヤースミーンが質問すると、先ほどから考え込んでいたタリーはおもむろに口を開いた。



「素材はたくさんあるから次はメイジマタンゴの炊き込み御飯にチャレンジしよう。」



ヤースミーンはこけた。



貴史は魔物料理の考案に没頭するあまり人の話も聞いていなかったタリーに苦笑するしかなかった。

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