死と誓い 後



「神威、進捗はどうだ」

『完成率5%。少なくとも、あと十年は掛かる予定です』

「それじゃ遅すぎるッ! もっと早くする方法はないのか!?」

『演算速度を上げれば最大三年は短縮できます。他に設計の見直しが可能です』

「よし、量子コンピュータに切り替えろ。うちの会社に古くなって使ってないやつがあっただろ? 家庭用よりは百倍増しだ。設計図は僕が見直す、AR(拡張現実)に表示してくれ」

「了解しました」


 あれから無事病院を退院した僕は、兼てより計画していた対アネモネラウイルス、Artificial人造VirusウイルスHopeの制作に着手していた。

 しかし、どの時代もウイルスを人の手で創ることは禁じ手であり、これはウイルスを模したナノロボットになる予定だ。


 ナノロボットとは、炭素・水素・酸素・窒素などの原子百五十種類以上を人の手で構築し、プログラミングした超小型ロボットのことである。

 平成の末期から研究されているが、未だに簡単なプログラミングと動作しか出来ておらず、着実に進んではいるがその歩みは緩やか。しかも膨大な時間を賭して一体が造られる為、大量生産には至っていない。


 そこで僕は考えた。ウイルスは他の生物の細胞を利用して、自己を複製する機能がある。ここに着目したのだ。


 目指すのは人体の中で必要な物質を自分で獲得し、複製する機能。そう、ナノロボットとウイルスの中間を僕は造りたい。


 今までは、大きく《指向性を持たせて動く+攻撃する》だけだったのに加え、《複製する》をプログラミングするのだ。

 言葉にしてみれば簡単であるが、複製するにも先ずは《必要な物質を集める》を記憶させる必要があり、付随する仕事量は半端じゃなく増える。


 だが、やるんだ。自分の手で……。


 発想は悪くないと思った。だけど、足りない物が数え切れないくらいある。

 研究するにも僕はまだ子供で、博士でもなければ修士ですら無いただの人だ。研究資金も無い、場所も無い、機材もない、無い無い尽くしで夢は叶えられる筈もない。


 僕にあるとすれば、AIの父にして、日本を代表する高度医療機構総合病院の理事長を兼任し、WJC(世界共同研究センター)の一人である父さんのコネだ。


 何事も順序を踏まなければ先へと進めやしない。ナノロボット研究の最善線に立つには、何がなんでも博士号を最短で掴み取らなければいけなかった。


「大丈夫。僕には明確なビジョンが見えている。神威カムイ、いくよ。サポートは頼んだからね」

『お任せ下さい奏様。いついかなる時も私はあなた様と共にあります』


 なんとも頼もしい相棒だ。

 この日の為、遠坂とおさか総司そうじの予定は押えていた。

 

 あとはうまく終えるだけ。

 僕は設計図を握りしめ、理事長室の重たいドアを開く────。


 彼女を生き返すことだけを胸に────。


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