桜色が舞う頃に



「*う**そろ、目**め**良いと思**ですが」


 ノイズが響くような音がした──。それから、眩しい。そう思った。

 まだ寝ていたいのに、強制的に瞼を開けられるとチカチカと白が点滅した。


「栞、起きて」


 懐かしい、声だった。ずっと前から知っている、温かい声……。


「おかあ、さん?」


 わあっと、沢山の歓声が聞こえた。

 うるさいなぁ、何なのよもう。

 眩しさに視界をやられながら目を開くと、ぼんやりと色んな“色”が頭にガツンと押し寄せる。

 何これ…………。


「大丈夫? 栞」


 栞……私の名前だ。


「お母さん? だよね」

「そうよ。あなたのお母さんよ」


 もう一度、ゆっくりと慣らしながら開けば、美しい女性が立っていた。

 あぁ、お母さんだ…………。


「ふふ、泣いてるの? 色は、ちゃんと見えてるかしら」


 色? そうだ、赤と黒だけじゃない、沢山の情報……。これが、色なのね。

 体を持ち上げると、何処どこからかシャランと微かに音色が響いた。


「どこ……」


 私は何かを探している。それだけは何故か分かった。

 無意識に掴んだそれは、綺麗な空色を輝かせていた。

 誰、だっけ。


「どこ行くの、栞? まだ起きたばかりなんだから無理しちゃ駄目よ……」


 会いたい。君に、会いたい。どこにいるの? ✽✽✽くん……。


 布団から降りるのも、自分一人じゃ難しかった。

 地に足を下ろすと、膝が痛んだ。

 机を支えに立ち上がると、腰が悲鳴をあげた。

 数歩歩あゆめば、息が苦しくなった。

 倒れそうになって、壁にぶつかった。

 落ちたカレンダーは、進んでいた。

 それでも私は、前に進んだ。

 扉を開けば、優しい風が私を包んだ。

 いつもの椅子は、空いていた。

 私は誰かを──、待っている。


「お隣、座って良いですか?」


 心地いい音色が鳴ると、私の心はトクンと跳ねた。


「好きにすればいいわ」

「綺麗なネックレスですね」

「……好きな人がくれたの」

「好き、なんですか?」

「好き、よ」

「合言葉は?」


 そんなの、もう必要ないって叫びたかった。だって、それを知っているのは貴方と私、ふたりだけ。


「桜は」

「ピンク」

「葉っぱは」

「緑」

「菜の花」

「黄色」

「奏は?」

「空色。栞は?」

「赤色」


 そうだ、約束したことがあったんだ。


「「僕(私)と、付き合って下さい!!」」


 六年越しの告白は、いつかのように息苦しくて……綺麗な桜色が、舞っていた。


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