「お父さんの昔話」

 あれは丁度、僕やママが一翔と同い年だった頃の話だ。

 その頃のママは、女だてらに昔で言う「ガキ大将」そのものだったんだ。近所の年下の子供達を引き連れて、故郷の野山を駆け回っていた。


 その時、ママとそのグループが夢中になっていたのが「秘密基地」作りだ。

 近くの雑木林の中のちょっとしたスペースに、捨てられていたブルーシートで簡単な屋根を作って、たまり場にしていたんだな。

 けれども、その場所は近所の別の学校に通う悪ガキグループのたまり場でもあった。当たり前のように二つのグループはかち合い、「秘密基地」の取り合いになってしまったんだ。


 悪ガキグループはママと同い年の子供が中心で、ケンカにでもなったら年下の多いママのグループが圧倒的に不利だった。

 だからママは、相手のリーダーにこんな提案をしたんだ。


「リーダー同士で一騎打ちしようよ。で、負けた方がおとなしく『秘密基地』を諦める」


 悪ガキグループはその提案を聞いて爆笑したよ。

 「女がなんか言ってるよ」だとか「男に勝てるわけないだろ」とか、散々に言ってから、その条件をのんだ。

 ――ただ、相手のリーダーだけは乗り気じゃなかったんだ。でも、同調圧力には勝てなくて、渋々「一騎打ち」に応じたんだな、これが。


 結果? それはもう、

 あの頃、ママのお父さん――一翔のお祖父ちゃんは、空手道場をやっててね。しかも超が付くほどの実戦空手で、当然のようにママも空手を仕込まれていた、

 強かったのかって? そりゃあもう、同い年の男なんて目じゃなかったさ!


 で、当然のようにママは相手のリーダーをボコボコにして「秘密基地」を勝ち取ったんだけど――実は、話はそれで終わらないんだ。


 一週間くらい経ったある日、悪ガキグループのリーダーが一人で「秘密基地」へやって来た。

 ママは当然、仕返しに来たと思って身構えたんだけど……相手のリーダーは、とても意外なことを言い出したんだ。

 何て言ったかって? こうさ――。


「強い君に惚れました! 僕と付き合ってください!」


 ――え? ママはそれに何て返事したかって?

 あはは、実は返事もせずに顔を真っ赤にして相手のリーダーをタコ殴りにしたんだ。


 でも、相手のリーダーは全く諦めなくて、告白しては殴られて告白しては殴られて……。

 それが十回も続いた頃には、遂にママも根負けしてね。一言、「分かった。アタシの負けだ」って。


 それで、リーダー同士が付き合い始めたから、悪ガキグループの他の面々とも自然と和解して、「秘密基地」を取り合う仲から、手と手を取り合って遊ぶ仲になったのさ。

 めでたしめでたし。


 ――えっ? 相手のリーダーは、その後どうしたかって?

 何を言ってるんだ、一翔。お前の目の前に、こうしているじゃないか。

 感謝しろよ? パパがママに勝ってなかったら、お前はここにいないんだからな――。



(おしまい)

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さわだの短編集 澤田慎梧 @sumigoro

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