パパの昔話(ジャンル:現代ドラマ)

「息子のケンカ」

 ある日のこと。

 我が家へ帰宅すると、一足先に帰っていたらしい妻が、息子の一翔かずとをリビングで正座させ、鬼の形相で説教していた。

 一翔の顔は何故か絆創膏ばんそうこうだらけ。一瞬だけ妻がやったのか? 等と失礼なことを考えたが、流石にそんな訳はない。


「あらパパ、おかえりなさい。ちょっと聞いて? この子ったら今日、派手にケンカして来たって言うのよ!」

「ケンカ……? へぇ、最近の子供は取っ組み合いのケンカなんてしないって聞いてたけど……で、一翔。勝ったのか?」

「パパ? もっと真剣に考えて。最近は面倒くさい親が増えてるんだから、相手の子に怪我でもさせてたら後々面倒なのよ?」


 なるほど、確かに妻の言うことにも一理ある。相手の子の親がモンスターペアレントとやらだったら、一方的にこちらが悪いことにされてしまうかもしれない。

 ――けれども、結果としてそれは杞憂に終わった。


 一翔の話をよくよく聞いてみると、「ケンカ」というよりは「複数人からボコられた」が正しいらしい。

 なんでも、公園の遊具を取り合って上級生の一団と言い争いになり、思わず一翔から手を出してしまったのだという。そうしたら相手方が激昂して、数人でひとしきり一翔を殴る蹴るしてから、どこかへ行ってしまったのだとか。


「なんだそりゃ、イジメじゃないか!」

「違うよ。こっちから手を出したんだから『ケンカ』だよ。イジメられてなんかないやい! あいつらの方からいなくなってくれたし、オレの勝ちだもん!」


 負けず嫌いなのか、はたまた本人の中では実際にそういう認識なのか。一翔はあくまでも「ケンカ」だと言い張った。

 まあ確かに、相手が先にいなくなったのなら、一翔の勝ちと言えるかもしれないが……。


「もう、どちらにしろ暴力は駄目よ! 特にこっちから手を出すのは絶対に駄目!」

「え~? だって~」

「『だって』じゃない!」


 妻の言うことはもっともだ。どんな理由があっても、先に暴力に訴えた方が悪くなる場合が多い。

 ――とは言え、子供にそんなことを言っても素直に聞く訳がない。ここは一つ、でもするとしよう。


「まあまあ、二人とも。少しは落ち着け。一翔、ママの言うことはちゃんと聞いておいた方がいいぞ? お前のことを心配してるんだ。……ママも、もう少し冷静になりな。ママだって子供の頃はものすご~く、ケンカっ早かったじゃないか――しかも、そのせいで訳だし」

「ちょっ!? パパ!!

「えっ? 何の話……?」


 真っ青になる妻と興味津々そうな一翔の様子を眺めながら、僕はとある「昔話」を始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る