【IF】参謀は覇王様に恋をした
あり得ない状況で、あり得ない環境で、あり得ないことに巻き込まれている。それがワタシ、
いや、別にそれは良いんだけど。
もう諦めたというかね?ゲーム世界に放り込まれたなら、開き直って生きるかとか思ってるから。何だかんだで楽しく快適に日常を過ごしてますし。それは、別に、構わない、と、思う。
問題は、ワタシの心境の変化だ。あと、物理的な問題が。
「お前は何を部屋の隅に丸まってるんだ、ミュー?」
「ふぎゃ?!い、いきなり現れるな!あと、当たり前みたいにヒトを摘まむな、馬鹿!」
不思議そうな顔をしてワタシをつまみ上げているのが、件の覇王様、アーダルベルト・ガエリオス様。獅子の
「お前の様子が変だとライナーが言ってたからな。どうした?また何か妙な《予言》でもあるのか?」
「……な、何も無い。ちょっとした、心境の変化的な…。いや、うん、アンタには関係無いから放置してくれておkだ」
「ミュー?」
「…ご、誤魔化されてくれても良いじゃんか、阿呆!」
笑顔でワタシの名前を呼ぶ覇王様は、全然騙されてくれないし、誤魔化されてもくれない。ヒドイヤツだな!基本的に以心伝心ってのはいつものことだけど、たまにはちょっと、誤魔化されろよ、馬鹿ぁああああ!
「……ッ、顔、近い」
「は?」
「顔が近いって言ってんだよ、阿呆!」
自由になる手足で攻撃をしても、全然効果がありません。ちくしょう!ワタシ非力!すっごい非力!悔しい!
……本当、顔が近いんだよ、アーダルベルト。アンタね、ワタシに対してパーソナルスペース狭すぎ。自分がワイルドイケメンだっていう自覚も無さ過ぎ。……確かに、今まで、全然それを気にしてなかったワタシが、悪かったのかも、しれないけど。でもな、あのな、ワタシ、これでも一応、二十歳の娘さんなんだよ、アディ。
不思議そうに首を傾げないでくれ。ワタシだって、こんなのアリかと思うんだ。あり得ないと思ってるんだ。だけど、でも、…仕方ないじゃ無いか。うっかり自覚したら、堕ちたら、どうにもならんのだよ。
「……ちくしょう。明らかに射程外だって解ってるのに、無謀すぎるだろ、ワタシ」
「何の話だ?」
「独り言だよ!いい加減降ろせっつーの!」
今までが今までなので、全然気づいて貰えてないようですね。以心伝心のワタシ達ですが、そこを気づかれたら羞恥で死にそうになるので、いっそ気づかないままでいてくれたまえ。そして、ちょっとは距離感という言葉を思い出せ。お前もいい年した男だろう。ワタシもいい年した女なんだ。そこら辺をちょっとぐらい、客観的に考えてくれ。
…つーかもう、何でワタシは、こやつに恋をしちまってるんだ。
気づかないままでいたかった。気づいた事実を封印したかった。だって、ここはワタシの世界じゃ無い。ワタシはいつか、元の世界に戻るかも知れない。戻れないかも知れないけれど、その可能性はゼロじゃ無い。その状態で、この世界の住人に恋をするとか、どんだけ馬鹿なの?自分で自分を殴りたいよ。
しかも、相手はアーダルベルトだ。ワタシを女と見なしていない。だからこそ、対等の友人として、悪友としてこうやって当たり前みたいに傍に居られる。それは事実。それで良い。ワタシ達の関係は、それで良いんだ。それ以外の理由なんて、意味なんて、必要ない。……そのはず、だったのに。
ワタシの前でだけ、子供みたいに笑って、甘えて、素直になる彼を見たら、うっかり恋に堕ちました。
言葉にすればそれだけだ。何その単純思考。甘えられて嬉しいとか、そういう思考回路は無かったと思うんだけど。でも、だって、自分が特別だと解ると、嬉しいのは事実だ。ワタシの前だけ、態度が違う。ワタシに対してだけ、砕けてる。そう思ったら、こう、色々と顔が弛んだ。へにゃって笑ってた。笑ってる自分に気づいて、その意味を理解して、枕殴り続けて全部忘れて埋めてしまいたかった。現実って残酷。
大事な大事な悪友です。多分、アーダルベルトにとって、ワタシは唯一の友人なのですよ。だからこう、距離の取り方が色々とオカシイ。あと、ワタシの性別が女だと言うことを綺麗に忘れているので、余計に。今まではそれで良かった。それが良かった。だけどさ、惚れてるの自覚した今のワタシにとっては、どんな苦行って感じなんですよ。
だって、惚れた男の顔がめっちゃ近くにあるとか、当たり前みたいに抱え込まれるとか、心臓ばくばくして普通じゃね?!しかも相手は、ワイルドイケメンにイケボな覇王様だぞ!?ワタシの前限定でちょっとお茶目だけど、基本的に格好良いんだよ。あぁ、そうだよ、あいつ、ムカツクぐらいに格好良いんだよ、ちくしょう!惚れるに決まってんだろうがぁあああ!
だがしかし、微塵も勝算が無い勝負に挑むほど、ワタシは血の気は多くないし、強欲でも無いし、考え無しでも無いのです。つまり、現状ワタシに出来ることは、今まで通り、《唯一無二の悪友》というポジションで、覇王様のお役に立つことだけなのですよ。わかってる。それで仕方ないことも、ソレが最善だということも、わかっています。
そもそもが、ワタシが彼と結ばれるわけがない。
この世界において、ワタシは
その辺の危機感がありつつも、気にせず《予言》を口にして干渉しまくってるワタシですが。いやだって、もしかしたらを気にして大人しくしてても、良い事ないですよね。ワタシは目の前で困ってる人がいたら助けたいです。自分の精神衛生上のために。それだけのために。
話が逸れた。
つまり、そういう微妙なポジションにいるワタシですので、必要以上に関わるのは御法度だと解っている。あの覇王様は阿呆ではないので、ちゃんと正面切ってお話しすれば、一応認識ぐらいはしてくれるだろう。恋愛対象としてはスルーされるかも知れないが、一番近いところで過ごすことを赦し続けてはくれるだろう。生殺しかも知れないが、それが現実である。んでもって、言わないでもそのポジションだろうワタシなので、選択肢は黙秘オンリーである。
「どうした?」
「何でもねーよ。とりあえず降ろせし」
「解った解った。……で、本当に大丈夫なのか?」
「平気だって言ってんだろ!何かあったらちゃんと言うから、心配すんな」
「それなら良いが……」
まだ不満そうにしてるけど、仕事が残っているのか去って行くアーダルベルト。
言えるわけがないだろうが。だってお前、ワタシのこと女として見てないし。女として見ろと言っても無理だろうし。むしろワタシがアンタを男として見てるって知ったら、微妙な顔をするだろうし。解ってるからワタシは、このままで良いかと思うわけですよ。別に困らせたいわけじゃないしな。
なのでカミサマ、できるなら、せめて悪友として彼と過ごす時間ぐらいはお許し願いたいのですが、ね?
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