参謀、台所で色々見る。
暇つぶしというか美味しい食べ物を求めてワタシが台所に入り浸るのは、もはや当たり前で当然で普通のことになりつつある。それは別に良いし、邪魔者扱いしないで居場所をくれる料理番さんたちはとても好きだ。ここは気楽でホッとする。あと、シュテファンはおやつ作ってくれるし、癒やしだしね!
んでもって、台所に入り浸るうちに、気づいたことがある。
ここに入り浸ってんの、ワタシだけじゃなかった?!
いや、台所とか料理番の休憩所とかに、普通にそうじゃ無いヒトが紛れ込んでてね?そういう阿呆なことするのワタシだけだと思ってたら、他にも常連さんっぽいヒトが何人かいるんですよ。料理番さんとご友人とか、彼氏彼女とか、親子とか、まぁ、そんな感じで。結構意外に緩いなーと思ったら、「仕事するならそれ以外の時間は自由にして構わない」ってのが、アーダルベルトとユリウスさんの方針らしい。まぁ、仕事してくれるならそれで十分だもんね。わかる。
お父さんに会いに来る娘は微笑ましいよね。料理番の中堅ぐらいのおじさんのところに、入ったばかり見たいな可愛い侍女さんが走ってくるの。お父さんの方が料理上手だっていうのに、侍女仲間と作ったクッキーとか持ってくる娘さん、マジ可愛いです。ウサギの親子最高!お父さんも、娘さんが来るとそらもうデレデレで、周りも微笑ましく見てて、実に素晴らしいです。
彼氏彼女も微笑ましいんですよね。あぁ、夫婦もいらっしゃった。料理番は大概男の人で、時々女の人もいるんだけど、まぁ、本職料理番に食べ物差し入れする恋人や夫婦とかマジで良いですね。下手なのは解ってるけど、いつも作ってばかりの君へ、みたいな感じの優しさがトキメキです。見てると幸せになれます。
そんな素敵な人間模様が見物できる料理番の休憩所。実にステキ。ワタシの憩いの場所としてのゲージがぐんぐん上がっています。あ、不動の一位は勿論自室です。豪奢なベッドでごろごろ快適です。エアコンは無いけれど、魔法で温度調節器具使って色々してくれてるので、基本快適です。…今度エアコンとか床暖房とかの存在を伝えてみよう。何か改良してくれるかもしれん。
で、そんな素敵な場所なんですが、いつもの光景として、罵声が響きました。
「とっとと持ち場に帰れと言ってるだろうが、この馬鹿!」
「いやいや、今休憩中だから。つーわけで、何か食わせて。腹減った」
「腹が減ってるなら食堂へ行け!そっちで何か作って貰え。俺は夕飯の仕込みで忙しいんだ」
「そう言うなよ~。俺はお前の作るのが食べたいの。最近、ここに来ないと作ってくれないじゃん?」
「俺は忙しいと言ってるだろうが!」
仲良く口喧嘩をしているのは、料理番の若手組リーダーっぽいお兄さんと、遊びに来ている門番である衛兵のお兄さん。どっちも
あ、話が脱線した。ごめん。虎さんと狐さんは幼馴染みで家が隣同士で、性格が正反対で、昔からこうやって喧嘩ばっかりしてる、らしい。基本的にそういった情報はシュテファンに貰います。今も二人で、喧嘩してる彼らを眺めながら、もしゃもしゃと試作品のチーズパン食べてます。チーズの配合を色々考えてるんだよね。焼きたて食べるなら、上にチーズ乗ってるも良くない、シュテファン?
「チーズの種類はどうします?」
「んー、こう、パンを囓ったときにとろーんって伸びる感じのが楽しそう」
「じゃあ、そういう感じでやってみますね」
「うん」
チーズパン美味い。焼きたての美味しさを更に引き立てるように頑張ってね、シュテファン。
暢気なワタシ達の眼前では、虎と狐の大喧嘩が繰り広げられています。もとい、狐さんがキレる虎さんに気にせず懐いてる感じ。何でそんなに虎さん大好きなんですか、狐さん。むしろ恋してる勢いで好きと言われても納得するぐらい、大好きオーラ出てますけど。……いや、ワタシが腐女子だからってわけじゃなくて、客観的に冷静に判断してもあの二人そう見えます。矢印の一方通行感が半端ない。
「シュテファン、あの狐さん、虎さん好き過ぎね?」
「いつものことですよ」
「もしかして、あの狐さん、虎さんに惚れてる?」
「それは無いです。既婚者ですよ」
「ぶふっ?!」
あっさりと暴露された事実に、ワタシは思わず飲んでた紅茶を吹き出して、むせた。げふげふやってると、シュテファンが心配そうに労ってくれる。ありがとう、シュテファン。君の優しさは嬉しい。嬉しいんだけど、今聞いた情報が、思いっきり
あれだけ、あれだけべたべたしてて、思いっきり好きオーラ出してて、狐さん、既婚者なの?!嫁がいるの!?それなのに虎さんにあそこまでべったりなの!?理解不能なんですけど!
「だぁあああ!これでも食って、さっさと帰れ!」
「おぉ、ありがとう。いやー、やっぱりさ、お前のパンケーキが一番美味いんだよなぁ…。何で嫁に作って貰っても同じにならんのだろう…」
「材料は同じだし、基本も同じだし、そもそもこれはウチの母から教わったぞ」
「そう、それだ。何で兄と妹で味が変わるんだ?同じように作ってるはずなのに……」
投げつけるように渡された皿を受け取って、嬉しそうにパンケーキを食べる狐さん。
いや待て、お前今何を口走った?もしや、狐さんの嫁は、虎さんの妹だったりするのか?二人はもしや、義兄弟とかになるのか?幼馴染みで、正反対の親友で、腐れ縁で、更に妹と結婚して義兄弟とか、どこまでお約束なんだよ、アンタ等!
「……お前、いい加減俺を引き合いに出すな。妹に殺される」
「ははは、大丈夫だ。俺は嫁の料理も大好きだ」
「……いいか?お前が迂闊なことを口にする度に、妹は俺に殴り込みをかけるんだぞ?」
「頑張れ☆」
「頑張れるか!あいつは格闘術の達人級なんだぞ!?」
どうやら、虎さんは死活問題に陥っているらしい。そして、狐さんは予想通りに口が滑っちゃうタイプの阿呆らしい。うむ。頑張ってくれ、虎さん。君の幸運を祈っておく。でもワタシ、狐さん面白くて好きだ。眺めてる分には、とても楽しいし、面白い。
……なお、そう思っているのはワタシだけではないようで、他の人たちもいつものことと面白そうに彼らを見ていた。頑張れ、虎さん!
その後、狐さんがいなくなってから、あの虎さんがパンケーキ超上手と聞いたので、おねだりして作って貰いました。美味しかったです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます